スーパーCEO列伝

2年間で23億円を調達。22歳の社長が語る“スタートアップ起業”

株式会社タイミー

代表取締役

小川 嶺

文/藤堂真衣 写真/宮下潤 | 2020.04.10

2019年までに、ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家らから合計23億円もの資金調達に成功した「株式会社タイミー」。代表の小川嶺氏は起業フェーズで大きく成功をおさめた形だが、サービスづくりや資金調達の“舞台裏”には、どのような戦略があるのだろうか。

株式会社タイミー 代表取締役 小川 嶺(おがわ りょう)

1997年生まれ、東京都出身。高校時代から起業を志し、2017年8月、立教大学在学中にアパレル関連事業の「株式会社Recolle(レコレ)」を設立するも、一度は解散。様々なアルバイトを複数掛け持ちする日々の中で「応募から勤務、報酬の受け取りが一つのアプリで完結できたら」と感じ、ワークシェアリングアプリ「タイミー」の開発に着手。社名を「株式会社タイミー」に登記変更し、代表取締役に就任、2018年8月にアプリをリリース。将棋は認定2段の腕前。

リリースから1年半でユーザー数100万人を超えた「タイミー」

「スキマ時間を使ってアルバイトができる」という特徴が若者の心をとらえ、ユーザー数が100万人を数えるバイトマッチングアプリ「タイミー」。2018年8月のアプリリリースから1年半の間には大手飲食チェーンの導入もあり、導入店舗数も1万店舗を超えている。

「忙しくなる時間帯だけ人手が欲しい」「空いた時間でお金を稼ぎたい」。雇い手と働き手のニーズをくみ取るサービスが受け入れられたタイミーだが、その資金調達スピードにも注目が集まっている。事業スタート時から4度にわたる調達を成功させ、その総額は23億円オーバー。調達を成功させられたのはなぜなのだろうか? 代表の小川嶺氏にインタビューを行い、スタートアップ起業を成功させるためのエッセンスを聞いた。

自身のアルバイト経験から「タイミー」をひらめいた

――「タイミー」というサービスを発案した頃のことをお聞かせいただけますか。サービスを発想したのはいつごろだったのでしょうか。

小川 2018年の3月だったので、およそ2年前になりますね。感覚としては「もう2年」という感じ。同年8月のリリースまでは怒涛のような日々でした。「タイミー」のターゲットユーザーである大学生が夏休みに入るタイミングに合わせてリリースするために、必死でしたね。

――自身のアルバイト体験がもとになっているということですが。

小川 そうです。「タイミー」の前に取り組んでいた事業をたたんで普通の大学生としていろいろなアルバイトに励んでいましたが、応募から報酬の受け取りまでってネットや電話、対面などいろいろな手間を挟みますよね。それに、当時僕がよく参加していた単発のアルバイトは「朝、集合場所からバスに乗って勤務地へ向かう」というような、初心者にとっては不安を感じるものもありました。

アルバイトには、いつ誰が経験しているのか、働いてみてどうなのか……といったレビューがありません。そういった不安を払しょくできて、応募から入金までの時間を短縮できるサービスとしてひらめいたのが「タイミー」でした。

求人検索から応募、給与の受け取りまでを「タイミー」のアプリで完結できる。

実績のない段階での資金調達。未来を想像させるビジョンを語った

――2018年4月には1200万円の資金調達をされていますね。「タイミー」の発案からわずか1か月での調達ですが、この時期の事業計画などはどのように作成されていたのですか?

小川 つくってはいましたが、本当にざっくりとしたものだったように思います。というのも、スタートアップの創業期は変化の連続ですし、2~3年先のことだって予測ができません。「タイミー」はまだプロダクトすらできていない状態でしたから、数値的なアピールよりも「どんな思いでつくろうとしているのか」「このサービスがどのように広がっていく未来があるのか」をずっとお話ししていました。

――「タイミー」のビジョンは「一人一人の時間を豊かに」ですが、これはどのような思いで取り組まれていたのでしょうか。

小川 これまでにもいくつかビジネスアイデアを持っていて、事業化までは至らなかったものもありますが全て「世の中を楽しく・豊かにする」ことにフォーカスしてきました。

創業時は恵比寿にあるマンションの一室がオフィスだった。(写真提供:株式会社タイミー)

人生の時間は有限ですから、できることは全部やりたいはずです。でも、その選択肢って見えているものしか選べないんですよね。もしもそこに僕たちのつくったアプリがあって、「何時から何時まで暇だな」と思ったときに開いて、この時間で何ができるかを提示してくれたら選択肢が広がりますよね。

その“できること”の一つが“働く”ということでした。今、空いている時間でできる仕事にはどんなものがあるのか。バーテンダーかもしれない、アパレルスタッフかもしれない。「タイミー」でいろんな仕事の経験を提案できたらと考えました。

――シード期から4回の資金調達に成功し、2019年10月にはVCなどから20億円の調達もありましたが、タイミングによって戦略を変えているのですか?

小川 そうですね。アプリリリース前の2回とリリース後の2回は変わっていると思います。ただし何か戦略があったわけではなく、ビジョンを信じていただいたリリース前と比べ、しっかりと事業の実績・成長率に焦点をあててプレゼンテーションを行っていました。大きなステージになるほどトラフィックは重視されますし、内容を詰める必要があります。

ただ僕は、トラフィックなどのデータを求められる場面のほうが説明しやすいとも感じていて。逆に言うと「数字があれば、信頼を得られる」ということだからです。反対に、ビジョンだけの状態で「これだけの見込みがあります!」というのを信じて投資してもらうほうが難しいと思いませんか。

「タイミー」はリリースから1年の間で、売上が前月比を大幅に上回る成長を続けることができました。その数字が投資家を安心させる材料になったと思いますし、「ここでTVCMを打てばさらにジャンプできるぞ!」と構想を描き、調達と並行してCM制作プロジェクトを動かしていました。

調達成功のエッセンスは“仲間”になってもらうこと

――リリースからの8か月で3回の調達は異例のペースだとも思います。これは計画的なものですか?

小川 最速を求めたわけではないのですが、事業スピードを一気に伸ばすためにはいくら必要なのかを逆算したときに、「このタイミングでこのくらいの調達が必要だ」と考えていました。自分が考えている「タイミー」の成長速度に後れをとりたくないんですよ。

「数を打つ」ことは非常に重要です。実際にお会いしていないとわからない投資する側の状況もあります。だからこそ、できるだけ多くの企業に当たっておくのは最も重要だと考えています。

それから、投資のご相談で企業や投資家に会う際には、自社のプレゼンテーションだけではなく「ヒアリング」にも注力します。なぜ会ってくれたのか? から始めて、どこに興味を持ってくれたのか、それはなぜか……と掘り下げていくと、必ず相手が感じている課題が見つかるんですよ。「それを一緒に解決しませんか?」と、自分にできることを提示して一緒に頑張っていける関係を築くのも大切にしている考え方です。

株式会社サイバーエージェント・藤田晋代表の「藤田ファンド」からも出資を得ている。

タイミングの面では、ギリギリになってから動かないことですね。資金の余裕がないと、条件面で妥協せざるをえなくなることもあります。投資を受けられなくてもまだ大丈夫と思えるタイミングで動くことも忘れないようにしています。

幼いころから将棋に親しんできたことが勝負強さにつながっているのかもしれません。
戦略を立てたり、相手の反応を見ながら次の一手を考えたりするのは得意だと思います。

3歳から始めた趣味の将棋は認定2段の腕前。

プロ棋士・藤井聡太七段とのショットも。将棋の鍛錬は今でも続けている。

「タイミー」の成長の先には、上場とグローバル展開がある

――従業員数は2020年3月時点で50人。現在も増え続けているそうですが、成長フェーズに入ってからの採用はどのように行われていますか?

小川 Wantedlyで反応をくれて、CTOになったメンバーもいますが、創業メンバーは基本的に友人の友人が多いです。採用で重視するのは「信頼できるか」。仕事だけでなく一緒に食事に行ったり、将来の話をできたりといった人間的な相性を大切にしています。

創業メンバーは信頼できる仲間ばかりなので、そのメンバーが連れてきてくれた人もきっと信頼できる人だろうなと思います。

これからさらに会社が大きくなっていくにつれて、リファラル以外の採用も増えていきますが、大人数のマネジメントは僕も初めて。常に「これまでで一番多い人数」をマネジメントしている状態です(笑)。でも、優秀なマネージャーたちがいてくれるおかげで、彼ら彼女らに任せられる面も多いですね。

社員が顔を合わせる機会というのも「タイミー」では大事にしていて、月例で全社総会を行っています。そこで会社の近況や特に伸びている部署など、情報をシェアできる。オフラインだからこそできる“なんでもないような話”も大切にしていきたいですね。

創業メンバーたちと。(写真提供:株式会社タイミー)

――今後、上場は具体的に考えていますか。

小川 はい。最年少上場を目指しています。

――上場に向けて積極的に動いていく理由はどのようなものですか?

小川 株主への恩返しであると考えています。創業期から支えていただき、人とのつながりをつくっていくときにも大きな支援を受けることができました。だからこそ、出資いただいた以上の金額をしっかりお返しすることがまず第一です。

もう一つは従業員の目標としての「上場」ですね。働いている人は「自分はいつまでここで仕事をするのだろうか」と感じることも少なくありません。ゴールが見えない中でやみくもに頑張るのって、思っている以上に厳しい。マラソンも、ゴールがあるからこそ走り続けられるはずです。そこに「上場」という一つの目標を作ることで、まずはそこへ向かって頑張れる。

渋谷オフィスにて。 (写真提供:株式会社タイミー)

上場の先には、世界で戦えるような企業になっていきたいという思いもあります。シェアリングエコノミーという文脈では、「Uber、Airbnb、タイミー」と呼ばれるような企業になりたい。

――最後に、スタートアップ起業を成功させる最大のポイントは何だと思われますか?

小川 オフィスに住むこと!(笑) 実際に住むかどうかは別として、24時間サービスや事業のことを考え続けられるかはとても大事だと思っています。不確定要素ばかりの新規事業に全てのエネルギーを注ぐのはとても大変なことですが、それを乗り切れるほど熱いパッションを持った仲間と一緒に「タイミー」をつくれたことは、とても恵まれていたと感じます。

そこからさらに事業をドライブさせるには、創業期の“熱狂”を維持しながらも、強さのあるメンバーを入れること。経験があって、導ける人材にジョインしてもらうことで方向を見失わずに成長していけると感じます。「タイミー」は今まさにこのフェーズ。組織づくりをしっかりと行い、次の成長へアクセルを踏み込める土台を整えていきたいです。

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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