未来を創るニッポンの底力

遠藤社長が明かす創業秘話

国産腕時計メーカー・Knotが「腕時計の流通革命」と「海外進出」にこだわる理由

株式会社Knot

代表取締役社長

遠藤弘満

写真/芹澤裕介 文/竹田 明(ユータック) | 2017.08.24

約80年ぶりに誕生した国産腕時計メーカーとして注目を集めている「Knot」。廃れ行く日本の腕時計製造業に一石を投じたい思いと、リストウェアという発想に感じた可能性が同社の創業理由だ。しかし、その奥には隠れたさらなる創業ストーリーがあった。

株式会社Knot 代表取締役社長 遠藤弘満(えんどう ひろみつ)

1974年、東京都生まれ。通信販売会社のバイヤーとして活躍し、米軍特殊部隊用腕時計「Luminox」やデンマークのブランド時計「SKAGEN」など、世界各地の商品を仕入れて、日本で次々と大ヒットさせる。2011年にはファッション分野で日本人初となる「デンマーク輸出協会賞」「ヘンリック王配殿下名誉勲章」を受勲する。2014年、国産腕時計メーカー「Maker’s Watch Knot」を設立。現在は吉祥寺、表参道、横浜元町、心斎橋、神戸元町、台北で直営店を運営。今後は、アジア数都市とニューヨークへの出店も予定されている。

2017年7月にリリースされた「knot」初となるソーラーウォッチ。ソーラームーブメントは日本が世界に誇る技術だ。

パートナーシップの消滅で辿り着いた腕時計のSPAというビジネスモデル

「Knot」を立ち上げた遠藤氏は、カリスマバイヤーとしてその地位を築いていた。デンマークの腕時計ブランド「スカーゲン」の輸入販売を行う会社で社長を務め、年間の売り上げは15億円。従業員も60名程度いた。危険な勝負に出る必要はなかった。

日本でのスカーゲンの輸入販売権を持つだけでなく、アジアのマーケティングディレクターでもあり、アジア14か国に対してブランディングコントロールをする立場にあった。アジアで使うスカーゲンの広告や写真はすべて日本で、つまり遠藤氏が作っていた。

「私の会社がスカーゲンの本社に広告や写真を売って、彼らがそれをアジアの国で使っていました。ディストリビューター(輸入販売業者)を超えた関係でした。世界で3番目にスカーゲンを売っていましたし、本国のスカーゲンとは良好な関係を築いていました」

ところが、順風満帆だった遠藤氏を悲劇が襲った。アメリカの大手ファッションアクセサリーブランドがスカーゲンを買収。それに伴って販売権を突然失ったのだ。

「10年間のパートナーシップが一瞬にして消え去りました。順調にビジネスを進めていただけに大きなショックを受けました」

スカーゲンとの唐突な破局は、遠藤氏のビジネスに関する考え方を根底から揺さぶったという。

「ディストリビューターのビジネスは、流通の中間部分をマネジメントする仕事です。それは、他人が作ったものを、他人に売ってもらう仕事を意味します。ものすごくリスクが高いことをビジネスにしていたと、スカーゲンとの関係解消をきっかけに気が付きました」

仕入れ先を失ったことで、販売店との関係もいつ終わるとも知れないことに遠藤氏は思い至った。遠藤氏の会社は、国内800店舗のショップにスカーゲンを卸していたが、取引高トップ3社で、全体の70%を占めていた。よく考えると、メーカーとのパートナーシップが消えたように、販売店との関係もいつ解消されるかわからない。

「スカーゲンを失ったことでビジネスを根本から考え直し、KnotのビジネスモデルであるSPA(製造小売り)にたどり着きました」

「Knot」HPより

「腕時計業界の流通革命」と「日本の技術の海外進出」

物が売れない時代、リアル店舗とオンラインでの販売が今後どうなるか先が見えない時代では、ディストリビューターや流通問屋は必要がないことに遠藤氏の考えは至った。遠藤氏が考えたように、現在では中間流通のカットによるコスト削減が叫びはじめられて久しい。商社は必要なくなり、メーカーと大手小売業が直接取引する時代になっている。旧態依然とした流通では、もう物が売れない時代なのだ。

「物が売れないから、売るための広告宣伝費がかさみ、それが製品の価格に転化され、物がどんどん高くなる。するとさらに物が売れない。だから広告宣伝費が必要に……。負のスパイラルです」

既存の流通システムはあちこちで悲鳴を上げている。代表的な業界例としては、百貨店やスーパーが苦しい。そこに出店する小売業者も苦しい、そこに製品を卸している問屋も苦しい、商品がユーザーに届くまでに関わるすべての業者が苦しい。そして、そんな流通全体の苦しみは、どんどん風上へ進み、ついにはメーカーへしわ寄せが行く。最終的に被害を受けるのは、製造元である工場なのだ。

「収益が上がらないとコストダウンを要求され、それを受け入れられないと契約を切られ、海外の工場へ発注されます。そんな事態を想定し、工場はリスクを上乗せした価格を提示します。その結果、メイドインジャパンの製品は高騰し、ますます売れなくなっていきます」

遠藤氏がKnotを設立した背景には、そんな日本の工場が置かれている現状の打破もあったのだ。

「Knot」のレザーベルトシリーズのひとつ「栃木レザー」。こちらは70余年に渡って天然由来のベジタブルタンニンにこだわり続ける、世界でも希少なタンナーである。

Knotの設立で日本の工場が持つ卓越した技術を改めて知った遠藤氏は、それを世界に広めたいと考え「MUSUBUプロジェクト」を立ち上げた。同社の製品を作っている最高の技術を持った日本の工場・工房を世界に広めるプロジェクトだ。

「素晴らしい技術を持った日本の小規模な工場や工房と世界の人々をつなぐには、世界市場で勝負できるパートナーが必要です。私たちはKnotの腕時計を通じて、メイドインジャパンの確かなクオリティを世界へ伝えていきたいと考えています」

腕時計業界の流通革命と日本の優れた技術の海外進出という、また違った視点でのストーリーもKnot創業の根底にあったのだ。

 

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