“超”私的エクストリームな瞬間

【ブリキのおもちゃ】

“モノ”に宿る魂がエネルギーになり夢を叶える

株式会社トーイズ

代表取締役

北原 照久

写真/宮下 潤 動画/トップチャンネル 文/高橋光二 | 2016.10.10

「開運!なんでも鑑定団」でも有名なブリキのおもちゃコレクター、北原照久さん。鑑定士、コレクターとしての顔とは別に、株式会社トーイズの代表取締役として「ブリキのおもちゃ博物館」の運営をはじめ、講演やイベント企画など精力的に活躍。コレクションにかける「北原社長」の思いとは?

株式会社トーイズ 代表取締役 北原 照久(きたはら てるひさ)

1948年、京橋のスポーツ用品店に生まれる。20歳でコレクションを始め、1985年に37歳で株式会社トーイズを設立し、今年で30年。「開運!なんでも鑑定団」(テレビ東京)などテレビ出演で広く知られる日本屈指のコレクターとして、東京、千葉、仙台など全国で7つのミュージアムを運営。講演、著書多数。近著に「1ランク上のステージに行く『つながり力』」(中日映画社/共著)、「たった一言が人生を動かす 88の名言」(中日映画社)「北原コレクション Vol.03 笑話」(評言社)など。

「ブリキのおもちゃ博物館」のドアを開けると、視界いっぱいのコレクションが迎えてくれる。ロボットや車、人形、お菓子のオマケまで多岐にわたったその膨大な量に圧倒されるが、株式会社トーイズが展開する全7館のミュージアムに展示されている全てを合わせても、北原社長の持つコレクションの3割にも満たないそうだ。

「僕はブリキのおもちゃコレクターとしてご紹介いただくことが多いですが、実は、ブリキのおもちゃは全コレクションの中で2割程度なんです。

コレクターになったきっかけも、ブリキのおもちゃではなく、20歳の頃に粗大ゴミ置き場で拾った八角形の振り子時計でした。それに、何か強いときめきを感じたんです。それ以来『ときめきを感じるものを身近に置きたい』という思いで48年もコレクションを続けています」

「ブリキのおもちゃ博物館」には、北原社長の集めたコレクションが所狭しと並ぶ。子供の頃に遊んだあのおもちゃもあるかもしれない。

自身を「熱しやすく冷めにくい性格」と評して笑いながら話す北原社長。では、ブリキのおもちゃの専門家として有名になったきっかけは何なのだろうか。

「今は南青山で飛行機模型の専門店を営んでらっしゃる、矢野雅幸さんのコレクションを雑誌で見たのがきっかけでした。

僕は昭和23年生まれ、いわゆる団塊の世代です。僕が子供の頃に遊んでいたおもちゃが、こんなにも美しいコレクションになるんだ、という驚きと感動がありました。子供の頃のときめきに囲まれてみたい、と思い、25歳で本格的にコレクションを始めたんです」

しかし当時はまだ、コレクションはあくまで趣味。株式会社トーイズの立ち上げに至るには、あるきっかけがあった。

「『POPEYE(ポパイ)』という雑誌の80年代特集の表紙に、僕のコレクションのひとつである“飛行機に乗るポパイ”のブリキのおもちゃを使ってくれたんです。当時、『POPEYE』はものすごく売れていましたから、話題になりました。

それがきっかけで、朝の情報番組『ズームイン朝!』でも取り上げられ、それがCMディレクターの浅葉克己さんの目に止まって西武流通グループのテレビCMでも僕のコレクションを使ってもらい、これもまた大きな話題になります。カンヌ広告賞で銅賞まで受賞したんです。そして、西武百貨店から展示会のお話をいただきました」

この展示会が、現在の株式会社トーイズにつながる大きなブレイクスルーになる。

「その頃、僕はまだブリキのおもちゃのコレクションを初めて5年ほどしか経っていなかったので、とても無理だと思いましたが、倉庫を見に来た百貨店の担当者さんが『これならいける!』と太鼓判を押してくれて実現しました。そして、蓋を開けてみると見事に大盛況。1週間で3万人ものお客さんがいらしてくださいました。

僕はその時、父の代からのスキー用品店を兄と営んでいましたので、根が商売人なんですね、瞬時に計算したんです。500円の入場料でお客さんが3万人。500円のポスター3000枚が完売。なんと1650万円の売上です。これはすごい!と(笑)」

コレクションにはお金がかかる。しかし、そのコレクションがお金を「生んだ」瞬間だった。

「これは商売になると思いました。でも、僕はやっぱりコレクターなので、コレクションは売りたくないんです。持っていたい。売ればビジネスになるんでしょうけど、それはやりたくなかった。だったら、ブリキのおもちゃを展示するミュージアムを作れば良いんだ!と37歳で『ブリキのおもちゃ博物館』を設立しました」

この決断から、今年でちょうど30年。株式会社トーイズの主力事業であるミュージアム運営が生まれた瞬間だった。その後も、北原社長のコレクションへのエネルギーは止まらない。そのパワーの源はどこにあるのか?

「モノは大切にするほどに、魂が宿ります。それがエネルギーにかわるんです。おもちゃなんて、捨てられやすいモノの代名詞とも言えますが、僕は、そんな捨てられそうなものに価値を見出して集めて大切にする。そうするとモノが恩返ししてくれます。

このコレクションのおかげで、ポール・マッカートニーやミック・ジャガーといった世界的な有名人にも、たくさん会うことができました。まるでおもちゃの恩返しです」

「言葉コレクター」でもあるという北原社長のFacebookページでは、毎日ひとつ「今日の言葉」が更新されている。迷いを感じたら覗いてみるといいだろう。

好奇心のままにトントン拍子で成功したかのように見えるが、やはり苦労もあったのではないだろうか。

「よく聞かれるんですが、僕は絶対に苦労を表に出さないんです。ボヤかない、恨まない、嘆かない。いつだって『これはチャンスだ!』と言っています。

もちろん苦労もありました。でも、100の苦しみに101の喜びがあるんです。紙一重でも、喜びが勝っているから続けてこられました。

どんな事業だって、それを興そうとした人は大変です。好きなことを仕事にするならなおさらですが、だからこそ、3倍の努力をしなくてはいけないと思います」

苦労は表に出さず、人の3倍も努力する。この考え方が、北原社長のリーダー論の根幹を成している。

「起業家、経営者はリーダーです。リーダーに欠かせない素質が4つあります。1つは『強さ』そして『優しさ』『ユーモア』『正しさ』です。ナポレオンは、『リーダーは周りに希望を配れる人でなくてはいけない』と言っています。

たとえば、1000万円の損失を出したときでも、ボヤかずに『僕たちは1000万円でこの経験を買ったんだ!チャンスだ!』と言い切って希望を配る強さを持たなくてはいけないんですね。その強さを持った上で、周囲に優しく接すること、苦しいときも笑えるユーモアを持つこと、そして皆を引っ張っていくリーダーとしての正しさを持つことが大切なんです」

最後に、若い起業家たちに向けてメッセージをお願いしたところ、にこやかに語ってくれた。

「コレクターならではの喩えで言うと『5万円と10万円のどちらを買おうか迷ったら必ず10万円の方を買え』ですね(笑)。目先の出費を惜しんで5万円の品を買ってもあとで必ず後悔します。10万円の品で満足を得たほうが良い。リーダーは常に先を見ていなくてはいけません」

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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