ヒラメキから突破への方程式

危機を転機ととらえネット時代の新業態を開発! 「アパート投資」で上場実現

株式会社インベスターズクラウド

代表取締役

古木大咲

写真/宮下 潤、動画/トップチャンネル、文/福富大介 | 2016.02.10

アパート経営プラットフォーム「TATERU」を運営する株式会社インベスターズクラウド。代表を務める古木大咲氏は、これまでの不動産業界にない新たなビジネスモデルを考案し、ピンチをチャンスに変えて急成長を遂げる。

株式会社インベスターズクラウド 代表取締役 古木大咲(ふるきだいさく)

1979年鹿児島生まれ、16歳の時に福岡へ。アルバイトを続け20歳で初めて正社員で入社した不動産管理会社で管理のノウハウを学ぶ。2006年に独立し、株式会社インベスターズを設立。創業8年にして売り上げ100億円を達成する。福岡を拠点として東京・大阪・名古屋・仙台を中心とするデザイナーズアパートの販売、不動産賃貸管理などを行い、2010年からは業界では珍しい在庫をもたないビジネスモデルで利回り8%の投資用物件を提供している。2014年8月より社名を「株式会社インベスターズクラウド」に変更。2015年12月東証マザーズへ上場。2018年4月に「株式会社TATERU」に社名変更。

古木氏が起業を決意した背景には、切実な危機感があった。高校を中退しフリーター生活をしていた頃、同じアルバイト先で働く自分と同年代の大学生たちが、次々と有名企業へ就職を決めていく姿を横目で見て「自分はどうなるのだろう?」と心から焦った。もともと何をやっても続かない性格だったが、「これでは駄目だ!」と一念発起し、まずは正社員として働ける会社を探した。

「高校中退という学歴で技術職は難しい。しかし、営業であれば学歴に関係なく勝負できると思いました。営業で最も実力主義の業界は不動産。そこで不動産会社を選んだのです」

入社してしばらく経った後、古木氏は新築アパート事業の立ち上げに携わることとなる。サイトを使って集客したいと思ったが、予算がない。

「何とか粘って会社と交渉し、100万円なら出してもいいと言われました。ただ、今度はつくってくれるところがない。やっとのことで見つけた1社は、プログラマー1人でやっているようなサイト制作会社。そこと2人3脚で、何とかアパート経営サイトを立ち上げました」

この時丸投げせずに、自ら開発の裏側に触れた経験が、後で大いに役に立つこととなる。

「インターネットを使ったアパート販売は、非常にうまくいきました。低予算でこの成果なら、スケールすればもっとうまくいくはず」

そう直感した古木氏は、2006年、かねてから描いていた独立起業の夢を果たす。

「当時、賃貸や販売の不動産サイトはあったが、アパート経営のサイトは少なかった。そこでSEO対策に力を入れ、ネットでアパート経営に興味のある人たちを集客。1年目9320万円の売上が、2年目には11億8599万円に達するなど、業績は順調に推移しました」

ウェブサイトに加え、スマートフォンアプリの「TATERU」も提供中。外出先でも気軽にアパート経営についてコンシェルジュに相談したり物件のチェックをしたりできる。

右肩上がりの業績はそのまま続くと思われた。しかし2008年9月、リーマンショックが勃発。

「集客はできているのに、銀行から融資してもらえないという事態に陥りました。多額の在庫を抱え、手形で借りていたお金を返済するのが困難になったのです」。

当時は、自社で仕入れた土地にアパートを建て、ネットで集客した顧客に販売するというビジネスモデルだった。このビジネスモデルの場合、土地を仕入れる資金がなければ成り立たない。借入れできたとしても、仕入れた土地が売れなければ在庫となり、負債は残る。

「その時は何とか営業に力を入れ、気合いで在庫を売り切ってしのぎましたが、いつまた同じような危機に直面するとも限らない。ビジネスモデルの根幹を見直す必要に迫られました」

そして、試行錯誤の上にたどり着いたのが、集客だけではなく流通形態にもインターネットを活用するビジネスモデルだ。

「私たちは、土地そのものではなく土地情報を仕入れ、土地を探している顧客とのマッチングに徹する。顧客は気に入った土地を販売業者から直接購入。インベスターズクラウドはその土地に建てるアパートを受注し、管理を代行することで利益を上げるビジネスモデルを採用することにしたのです」

新たなビジネスモデルは決まった。しかし、それを実現するのは容易ではなかった。

「まず社員に、なぜビジネスモデルを変えるのか理解してもらう必要がありました。そこで、全社員がキャッシュフロー計算書をつくれるようにしたのです。実際に自社のキャッシュフロー計算書をつくってもらい、これまでのビジネスモデルがいかに危険であるかを理解してもらいました」

社内の理解を得られた後も、決してスムーズにはいかなかった。

「ビジネスモデルを変えることによって、業務が非常に煩雑になりました。この課題は、システムで解決していきました。集客、マッチング、施工管理、賃貸管理といった各工程を細かく洗い出し、全てシステム化したのです」

古木氏の不動産営業としての経験と、アパート経営サイトの開発に携わったときの経験がここで活かされた。

システム開発には3年の月日を要し、その間は会社の業績も横ばい。しかし、完成とともに売上は爆発した。2011年には前年比172%、2012年には同じく225%の急成長、2015年には無借金経営へ転じ、同年12月3日に東証マザーズへ上場も果たす。

2015年12月3日、東証マザーズへ上場。無借金経営を誇る同社にとって上場は資金調達のためというよりも、認知度アップ、信頼度アップの意味合いが大きい。

上場によって会社としての信用が上がり、様々な会社との提携も進む。アパート経営アプリ「TATERU」の強化や、IT技術を取り入れた物件「スマートアパート」など、新たな取り組みにも挑戦中だ。

リーマンショックという危機を転機ととらえ、ビジネスモデルの転換を実現した古木氏。起業家らしいヒラメキの陰には、堅実な考え方が貫かれている。

「ビジネスの流行や大きなビジョンもあると思いますが、目の前のことをひとつひとつ丁寧に解決していった先に、結果として大きな目標の達成がある。周りにあまりとらわれず、地味な努力をコツコツやることが大事です」

そう力強く語る古木氏に、フリーター時代の面影はない。

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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