ヒラメキから突破への方程式

【連載】柴田陽子インタビュー[1]

ユーザー視点を追求し「感性消費」を捉える! 柴田陽子流ブランディングの方法論

柴田陽子事務所

代表取締役

柴田 陽子

文/竹田 明(ユータック) 撮影/久保田育男(OWL) | 2019.07.26

柴田陽子の顔アップ
「東京會舘」のリニューアルや「グランツリー武蔵小杉」の総合プロデュースなど、数多くのコーポレートブランディングを成功に導いてきた柴田陽子氏。ユーザー目線を徹底する彼女のブランディング方法は、広告やメディアなどを駆使してイメージ作りに終始する従来のブランディングとは一線を画している。ターゲットの心をつかんで離さない独創的な柴田流ブランディング、その方法論に迫る。

柴田陽子事務所 代表取締役 柴田 陽子(しばた ようこ)

大学卒業後に外食企業に入社し新規業態開発を担当。その後、化粧品会社での商品開発やサロン業態開発などの経験を経て、2004年に「柴田陽子事務所」を設立。ブランディングプロデューサーとして、コーポレートブランディング •店舗プロデュース • 商品開発など多技に渡るコンサルティング業務を請け負う。2012年 東急電鉄「渋谷ヒカリエ」レストランフロアプロデュース、 2014年セブン&アイ・ホールディングス「グランツリー武蔵小杉」総合プロデューサーを務める他、 2015年ミラノ国際博覧会における日本館レストランプロデュース、パレスホテル東京 7料飲施設プロデュース、2019年東京會舘 3代目新本舘総合ブランディングに携わる。また、都内にて飲食店を直営店として経営。「自分が本当に納得のできる、ものづくりがしたい」という思いから、理想の洋服作りをはじめ、2013年秋「BORDERS at BALCONY」を立ち上げる。

ユーザー視点を徹底して紡ぎ出す「勝てるコンセプト」

柴田陽子の顔アップ

膨大な情報が氾濫する現代社会では、ビジネスを進めるにあたって、マーケティングやブランディングで消費者・ユーザーのニーズをしっかりとつかむ必要がある。同業他社との激しいマーケティング/ブランディング合戦に打ち勝ち、消費者・ユーザーから選ばれなければ、どんなに優れた商品や快適なサービスも成功へ導くことは難しい。

マーケティングもブランディングも「正解」があるわけではなく、必ず成功するセオリーなどない。だから、難しい。企業は優秀なマーケターやブランディングプロデューサーを求めている。

2012年4月にオープンした「渋谷ヒカリエ」のレストランフロアや、2014年11月にオープンした商業施設「グランツリー武蔵小杉」の総合プロデュースを手掛けた柴田陽子氏は、ローソン「Uchi café Sweets」や「東京會舘」リニューアル、さらには野村アセットマネジメントのインデックスファンドのブランディングなど、多くのブランディングを成功に導いてきた。

新卒で入社した外食企業で新規業態開発を担当した後、出向先の化粧品会社で商品開発やサロン業態開発なども経験し、2004年「柴田陽子事務所」を設立した柴田陽子氏は、自らについて「ヒットメーカー」ではないと語る。

「レストランのプロデュースを手掛けていたとき、オープンした店を半年後に訪れたら、スタッフの接客スタイルがオープン当初からガラリと変わっていたことがありました。店が繁盛していればそれでもかまわないのですが、私は自分のブランディングで作り上げた多くの工夫が台無しになると感じました。そのときに、私はヒットメーカーになりたいのではなくて、長い間、人々に愛用されて価値が増す“ブランド”を作りたいのだと悟りました」

柴田氏が手掛けるプロジェクトは、どれも独創的で消費者の心を鷲掴みにする魅力にあふれている。例えば、2018年11月にオープンした定額制セルフエステスタジオ「BODY ARCHI(ボディアーキ)」のブランディングでは、ターゲットに据えた30代から40代の女性心理を徹底的に考え抜き、彼女たちが美と健康に求めている「ストイック」なイメージをコンセプトに据えた。

ボディアーキのレセプション ボディアーキの個室

2018年11月に第1号店としてオープンした定額制セルフエステスタジオ「ボディアーキ」表参道店。ロゴ、コーポレートカラーやキービジュアル、キャッチコピー、インテリアデザインを含むコンセプトは柴田陽子氏によるもの。すべての店舗は同じコンセプトの元につくられている。

ボディアーキのイメージ 矢野未希子の後ろ姿

モデルの矢野未希子さんを起用したキービジュアル。「ヨガだけじゃ、理想のラインはつくれない」というキャッチコピーが、美意識の高い女性の心を鷲掴みに。

「コンセプトを決める際は、ユーザーにどんな感想を持ってほしいか考えます。ボディアーキの場合は、仕事での成功や結婚・出産といったライフイベントを経験した女性が、自分の美と健康と向き合う点に、セルフエステの魅力があると感じコンセプトを提案しました」

ブランディングが正しいか否かはコンセプトに尽きると柴田氏は語る。だから柴田陽子事務所では、ブランディングやプロデュースを手掛ける場合、コンセプトワークに力を入れている。

「ブランディングの成功と失敗を分けるポイントは、勝てるコンセプトの設定にあります。私たちは、ブランディングの成功の勝率を上げるため、時にはクライアントの考えるコンセプトを覆すこともあります。失敗するとわかっているコンセプトに対して、苦言を呈するのも私たちの仕事。クライアントが求める商品や企業のイメージを作り上げるのではなく、クライアントと一緒に勝てるコンセプトを設定するのがブランディング成功への第一歩です」

 

「感性消費」を捉えるポイントはユーザーの感情

柴田陽子の上半身

「モノからコトへ」「消費から体験へ」と消費者意識が変化しているといわれている現代社会において、ブランディングの方法論も変化している。以前は商品を購入してもらうために、広告やメディアを活用して企業や商品のイメージアップを図ろうと苦心していた。「ブランディング=イメージアップ」と考えている人は、今でも一定数いるだろう。

しかし、現代は「感性消費」のキーワードで語られるように、「好き・嫌い」という感覚や気分を選択基準として、人は商品やサービスの購入を決める傾向が強まっており、消費者の感情によりダイレクトに訴えかけることが重要なのだ。

「現代の人、特に若い世代は『私に合いそう』『私は好き』など、感情や感性を揺さぶられた物を選択します。そのため、ブランディングを展開するにあたっても、ユーザーが何をどう感じるか想像をたくましくしてコンセプトを立案し、それに合わせた伝え方を用意する必要があります」

SNSで情報を拡散して商品やサービスに興味を持ってもらうにしても、有名人を使ったマーケティングだけでは、ユーザーの心は動かない。より消費者に近い人たちが信頼され、彼ら彼女たちの言葉こそが消費者の心に響くのだ。インフルエンサーやユーチューバーが注目されるのは、消費者に近い存在であり、ユーザーの心を動かす力があるからだ。

「人は、人や物に対して感情を持つ生き物です。それを逆手にとって、ターゲットに設定したペルソナに、どんな感情を持ってもらうかを考えコンセプトを決めます。そして、決定したコンセプトを伝えるために、私たちはタッチポイントと呼んでいますが、ユーザーが感想を持つ接点を作り上げていきます。建物の外観や店内の内装、室内のインテリア、スタッフの制服や接客態度などお客様の感想が立ち上げるところすべてがタッチポイントです」

柴田陽子氏のブランディングは、タッチポイントをコンセプトに沿って一つひとつ丁寧に作り上げ、タッチポイントを通して商品や企業と接して人の感情を揺り動かすように戦略を実行する。

企業が自ら考えるブランドイメージを一方的に発信するのではなく、ユーザー目線、さらにその先にあるユーザーの感情を見据えてコンセプトを作り、それに合わせてブランディングを進めていくのが柴田流ブランディングの肝といえる。

「ブランディングを進める前に『ブランディングとは何か?』をしっかり定義しておくことが大切です。私たちにとってブランディングとは、戦略的に狙った感情を喚起させることでビジネスを成功に導けるものなのです」

ユーザーの感情を戦略的に揺さぶるために、イメージやデザインを作り上げ、感性消費に対応する、それが柴田流のブランディングなのだ。

連載[2]
自己とライバルとマーケット 3つの分析を土台に創る「勝てるコンセプト」 柴田流ブランディングの方法論

 


柴田陽子氏によるブランディングプロデュース施設情報

ボディアーキ銀座店のレセプション

●BODY ARCHI(ボディアーキ)銀座店(2019年6月オープン)
住所:東京都中央区銀座7-3-8 銀座七丁目プレイス 3F
営業時間:11:00〜最終受付20:30
定休日:月曜日
部屋数:20室


 

ボディアーキ高田馬場店のレセプション

●BODY ARCHI(ボディアーキ)高田馬場店(2019年6月オープン)
住所:東京都新宿区高田馬場2-17-15 唐橋ビル 5F
営業時間:11:00〜最終受付20:30
定休日:月曜日
部屋数:25室


 

ボディアーキ心斎橋店のレセプション

●BODY ARCHI(ボディアーキ)心斎橋店(2019年6月オープン)
住所:大阪府大阪市中央区南船場3-5-11 心斎橋フロントビル 5F
営業時間:11:00〜最終受付20:30
定休日:月曜日
部屋数:17室
»BODY ARCHI(ボディアーキ)公式ホームページ

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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