ヒラメキから突破への方程式

【連載】柴田陽子インタビュー[2]

自己とライバルとマーケット 3つの分析を土台に創る「勝てるコンセプト」 柴田流ブランディングの方法論

柴田陽子事務所

代表取締役

柴田 陽子

文/竹田 明(ユータック) 撮影/久保田育男(OWL) | 2019.08.26

アートの前に立つ柴田陽子 
ユーザー目線を徹底した独自の手法で、現代人特有の「感性消費」を的確にとらえる柴田流ブランディング。仕事を進めるうえで、彼女が大切にしているのが「勝てるコンセプト」。2019年1月にリニューアルオープンした「東京會舘」の新本舘の総合ブランディングの仕事を通して「勝てるコンセプト」作りの具体的な方法を紹介する。

柴田陽子事務所 代表取締役 柴田 陽子(しばた ようこ)

大学卒業後に外食企業に入社し新規業態開発を担当。その後、化粧品会社での商品開発やサロン業態開発などの経験を経て、2004年に「柴田陽子事務所」を設立。ブランディングプロデューサーとして、コーポレートブランディング •店舗プロデュース • 商品開発など多技に渡るコンサルティング業務を請け負う。2012年 東急電鉄「渋谷ヒカリエ」レストランフロアプロデュース、 2014年セブン&アイ・ホールディングス「グランツリー武蔵小杉」総合プロデューサーを務める他、 2015年ミラノ国際博覧会における日本館レストランプロデュース、パレスホテル東京 7料飲施設プロデュース、2019年東京會舘 3代目新本舘総合ブランディングに携わる。また、都内にて飲食店を直営店として経営。「自分が本当に納得のできる、ものづくりがしたい」という思いから、理想の洋服作りをはじめ、2013年秋「BORDERS at BALCONY」を立ち上げる。

3つの視点でクライアントを徹底的に分析

「ブランディングが正しいかはコンセプトによる」と柴田氏は断言する。人の心をつかむこと、それがブランディングの成功だが、神さまでもない限り、おいそれと人の心などつかめるもではない。だからこそ、チャレンジングな仕事であり、成功したときに大きな価値を生み出すのだ。

柴田氏は「勝率」という言葉をしばしば用いる。ブランディング戦略の結果、ブランドメッセージが伝わり、ターゲット層のユーザーから支持を得て、商品が売れてサービスが利用されれば「勝ち」というわけだ。プロデューサーの仕事は、まさにこの「勝率」を上げること。100%の成功を目指し、緻密な分析を裏付けにブランドコンセプトを作り上げ、それをベースに具体的な施策を打ってブランディングを成功に導く。

柴田陽子の顔アップ

「私たちシバジム(柴田陽子事務所)が、ブランディングをお手伝いする際、最初にブランドブックを作成します。私たちが考えたブランドコンセプトを、具体的にお伝えするためのツールです。ブランドコンセプトを考えるとき、場合によってはクライアントのアイデアに苦言を呈することもあります。基本的にブランドコンセプトの立案に関して、すべてをお任せいただきます」

柴田氏がブランドコンセプトを立案するとき、最初に3つの視点でクライアントを徹底的に分析する。

まず、最初に「自己を知る」。アイデアやクリエイティブを生み出す前に、己をよく知ることが大切。クライアントがどんな会社、あるいは商品・サービス、個人であるか知ることからはじめる。

「ブランドは、クライアントが長く大切にしていくものです。自分たちの根幹と大きく離れるものだと、愛着がわかず、その結果、大事に育むことができません。シバジムでは、クライアントの企業風土や実績、社長の好みなど、クライアントが本来持っている強みを生かすべく、クライアントをよく知るところからはじめます」

東京會舘の外観

リブランディングを担当した東京會舘。「NEWCLASSICS.」をコンセプトに掲げた。

東京會舘の仕事では「NEWCLASSICS.」をコンセプトにした。1922(大正11)年に創業した東京會舘は、日本の歴史とともに激動の時代を経て約100年。エリザベス女王陛下をはじめ各国の国公賓、伝統芸能、政界・経済界の要人、著名人に評判の高い料理ともてなしがなによりの強みだ。

「お客様の中には2代・3代にわたって結婚式を挙げられる方がいるなど、時を超え、世代を超えて愛されてきた東京會舘。コンセプト提案にあたっては、これまで大切にされてきた価値を守り続けながら、これからの100年に向けた、フロンティア精神溢れる『新しいことへのチャレンジ』を融合させたいと考えました。そんな思いから、NEWとCLASSICを足しての造語、NEWCLASSICS.を提案しました」

分析結果にクルクルポン!アイデアに変換する魔法

柴田氏がブランドコンセプト立案に際して「自己を知る」と同じく重きを置いているのが「ライバルを知る」ことだ。競合他社がどんな戦略を設定しているか、しっかりと調査する。ライバルと同じことをしても、優位性や個性の確立にはつながらない。

「自己を知る」「ライバルを知る」と聞けば、ある言葉を思い出す。ビジネス書で必ずと言っていいほど取り上げられる有名なあの言葉。中国の兵法書「孫子」の一節「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」だ。ブランディングという一見華々しい仕事の陰で、ビジネスの基本をしっかりと押さえているのも、柴田氏の仕事が成功する秘訣であり、クライアントが殺到する理由であろう。

さらにもう一つ「マーケットを知る」ことも忘れない。ブランディングする商品やサービスがターゲットと考えている層の今のトレンドや嗜好の優先順位、感覚・センス、ライフスタイルなどを徹底的に調査する。前述の孫子になぞらえるならば、戦の前に「地の利」を探るといったところだろうか。

「自分たちの強みを生かして、他社に対して優位性があって、お客様に選んでもらえる。そのための条件をまずは抽出して箇条書きに並べます。その抽出した条件とにらめっこして、そこに“クルクルポン”と魔法をかけるとブランドコンセプトが出来上がります」

コンセプトを検討する過程で、対象を人格化(キャラクター化)して考えることがある。東京會舘のケースでは、英国のキャサリン妃をイメージした。

東京會舘のSWEETS&GIFTS

東京會舘の「SWEETS & GIFTS」。

「英国王室の伝統に則りながらも、現代的なチャーミングさも兼ね備え、自然体でいながら堂々とした気品ある振る舞い、そして輝く笑顔。高貴でありながら誰にでも好かれる、そんな愛らしい女性をイメージし、東京會舘のブランディングは進められました」

そうして出来上がったコンセプト「NEWCLASSICS.」を、本質はそのままに、見せ方を時代に合わせて変えながらブランディングを展開する。例えば、今回のリニューアルに際し、東京會舘のロゴも更新したが、もともとあったロゴをベースに、文字間隔や形を精査し、洗練された軽やかな印象にした。

「お客様に長く愛され、東京會舘を代表するお料理とスイーツが数多くあるのですが、そういった代表的なお料理の場合、本質は変えずに、提供スタイルやパッケージを工夫することで新しいスタイルを提案いたしました」

自己を知ってライバルに優位性を持てるアイデアを、マーケットのニーズに合わせて提供する。柴田流のブランディングの基本は、3つの分析が土台にあるのだ。

「ゼロイチ」を生み出せる感性とセンスは才能

柴田氏は「魔法をかける」と表現したが、分析結果をブランディングに落とし込むアイデアの生み出し方こそ、ビジネスパーソンが一番知りたい点だろう。どうすれば魔法をかけられるのか!

残念ながら、クルクルポンと魔法をかけられるのは、特異な感性であり才能であると柴田氏は指摘する。人を魅了する言葉や世界観などを「ゼロイチ」で生み出せるのは特別な人なのだという。

ボディアーキのイメージ 矢野未希子の上半身 ボディアーキ渋谷桜丘店のレセプション

ゼロからコンセプトを担当した定額制セルフエステスタジオ「BODY ARCHI(ボディアーキ)」。

「ブランドコンセプトを社内で考えようとする会社も少なくありません。外部に委託すればコストが発生するため内製化しようとします。しかし、ブランドコンセプトの立案は、ビジネスの成功において何よりも大切なこと。経営戦略の観点から見て、もっとも資金を投下しなければならないところです。社内にゼロイチを生み出せる人材がいなければ、私たちブランディングのプロの出番です」

柴田氏は、ゼロからブランドコンセプトを生み出せる人間は少ないという。それはクリエイティブな領域であり、時代を読む目と企業の可能性、つまり商品・サービスの「伸びしろ」を掴む目が必要とされるからだ。

柴田陽子の顔アップ

「経営者が必ずしもゼロイチができる人とは限りません。反対に、ゼロイチができるからといって会社を大きくできるとも限りません。ゼロイチができないなら、無理をせずにできる人間に任せる。それが経営者に求められる手腕です」

ブランディングを成功させるには、緻密な分析と「ゼロイチ」を生み出せる感性・センスが必要。柴田氏は、その2つを合わせ持っているからこそ、ブランディングを高い勝率で成功に導くことができるのだ。

連載[1]
ユーザー視点を追求し「感性消費」を捉える! 柴田陽子流ブランディングの方法論

 


 

柴田陽子氏によるブランディングプロデュース施設情報

東京會舘の外観

東京會舘
(2019年1月リニューアルオープン)
住所:東京都千代田区丸の内3丁目2−1
TEL 03-3215-2111
東京會舘公式ホームページ

ボディアーキの個室

BODY ARCHI(ボディアーキ)六本木店
(2019年9月3日オープン予定)
東京都港区六本木7-18-8 第Ⅲ大栄ビル 4F
営業時間:11:00〜最終受付20:30
定休日:月曜日
部屋数:19部屋
BODY ARCHI(ボディアーキ)公式ホームページ

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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