刺激空間から革新が生まれる

東京のど真ん中に水田、バラ園、トマト棚!!人を育む“農場オフィス”

株式会社パソナグループ

代表取締役グループ代表

南部 靖之

写真/宮下 潤 動画/アキプロ 文/福富 大介 | 2015.06.10

壁一面に咲き誇るバラの花、床一面に広がる水田天井からは、たわわに実ったトマトやキュウリ……。思わず東京の真ん中であることを忘れてしまうほどの光景。「人を活かす」ことを第一に考えるカリスマ経営者にとって働く環境こそが、社員の“志”を育てる農場だった。

株式会社パソナグループ 代表取締役グループ代表 南部 靖之(なんぶ やすゆき)

1952年兵庫県神戸市出身。1976年2月、「家庭の主婦の再就職を応援したい」という思いから、大学卒業の1ヶ月前に起業。人材派遣システムをスタート。以来“雇用創造”をミッションとし、新たな就労や雇用のあり方を社会に提案、そのための雇用インフラを構築し続けている。

ベストセラーよりロングセラーを目指し社員がいきいきと働ける環境に投資する

東京大手町にあるオフィスビルの1階、本来ならば企業のショールームにでもなっていそうな開放的なスペースに、田植えが終わったばかりの水田が広がっていた。

「4月に稲刈りをしたんですよ。自分が田植えをして、3~4か月の間すくすくと育つのを見守ってきた稲を刈るという喜び、感動は格別。自然の偉大さを肌で感じますね。5月には陸前高田市長を招待して、復興支援ブランド米『たかたのゆめ』の苗で田植えもしました」

満面の笑みを浮かべて、パソナグループ代表の南部氏は語る。

「人は1日のなかで最も長い時間を仕事場で過ごす。だから、例え都会の真ん中でも自然に囲まれた癒しのある環境で働けるようにしたい」

その思いを実現したのが、パソナグループ本部「アーバンファーム」だ。自然との共生をテーマにしたアーバンファームでは、水田のほか、外壁一面を覆う壁面緑化も見事。春には藤やバラ、夏にはノウゼンカツラ、サルスベリ、秋にはバラ(秋バラ)や紅葉と、四季折々の草花が楽しめる。

壁面には四季折々の花が咲き誇る。各フロア執務スペースの一部を削ってベランダにし、そこに植栽を施して壁面へと誘引している。

さらに、オフィス内の天井には水耕栽培のトマト、キュウリ、カボチャがなり、葉物野菜を育てる植物工場もある。そして収穫した農作物は、同じビル内の社員食堂で日々提供されるという徹底ぶりだ。パソナグループと聞くと、まず人材サービス業が思い浮かぶが、このオフィス空間を見ただけでは、何をしている会社なのか想像もつかないだろう。

「本来なら、地方活性という意味でもインターネットを活用して、地方でのびのびと働きながら、スポーツや芸術など得意な分野を磨く生活がいい。でも、誰もがそういう働き方ができるわけではないから、せめて東京の真ん中に自然と触れ合えるオフィスをつくって、どこであろうと精神的に安定して働けるということを証明したかった」

【2階】天井からはトマト、壁には柑橘系のフルーツ。観葉植物代わりに目の保養にもなるこの環境なら、ストレスなく働けそうだ。

実際にここで働く社員からの評判は上々だ。完成したオフィスで働き始めた時の感動は今も変わらず、日々さわやかな気分で仕事に励めるという。このように働く環境のモデルケースとしての一面に加え、教育の場としての一面もある。

「社員たちに自分が食べているお米や野菜がどれだけ大変な思いでつくられているかということを知って欲しかった」

実際には、社員だけでなく国内外から来社するお客様や、地域の小中学校、オフィス内にある企業内保育所に通うこどもたちの学びの場にもなっている。都会の、しかもビルの中で農作物の育成状況を観察できるこの環境は貴重だ。

屋上は、さながらビルの谷間に浮かぶ憩いの場。春にはバラが咲き誇り、天気のいい日はここでランチを楽しむ社員も多い。

ところで、あまりにも本格的な都市型農場だからこそ、気になることがある。一体、農作物の手入れはどうしているのだろうか。

「パソナ農援隊の社員や農業の専門家の指導のもと、社員たちが水をあげたり、枯れた草花を掃除したりしています」

なかにはパソナハートフルで働く知的障がいをもつ社員もいる。健常者も障がい者も協力して、みんなが快適に働けるように環境を整える。つまり、このこと自体が雇用の創出になっており、「人を活かす」ことにつながっているのだ。

「確かにこのような環境を維持するには、手間もかかるしコストもかかる。しかし、働く人が元気で頑張ってくれるのが一番なんです。一生懸命働いたとしても、心の病になって会社に来られないとか、社員同士が喧嘩ばかりしていれば、生産性は上がりません。逆に、社員が元気で、愛社精神をもって働いてくれれば、生産効率は上がります」

近未来的な雰囲気の植物工場では、社員食堂で提供する葉物野菜を生産している。使用している光源は液晶テレビのバックライト等で活躍されているHFFLライト。

このように人を第一に考えて働きやすい環境に投資する方が、長期的に見て会社は伸びていく。瞬間的な売上や利益を追求する“ベストセラー”よりも、“ロングセラー”を目指すという南部流の考え方だ。

「会社が大きく伸びていくためには、大きな“志”が必要です。そこで働く社員も同じ。“夢”は自分や自分の周囲を豊かにするものですが、“志”は社会を豊かにしてみんなに喜んでもらうもの。そして、“志”を持って偉業を成し遂げるためには、自信と誇りが大事です。憂いを残しては駄目。

そういう意味でも、働く環境は物凄く重要。きっと、今ここで働いている人のなかから、パソナグループだけではなく日本を変えるような“志”を持った人材が出てくると思います」

そんな南部氏が若い頃、父親からもらった大事な言葉が2つある。1つは、「英雄は若者から生まれる」という言葉。世の中を変えるような偉業を成し遂げる人は、若い頃から志を持っている。若い頃から志を持って世の中の人たちに愛されて、頼られるような存在になれということだ。

もう1つは、「土薄き石地かな」という言葉。石ばかりの地面から根を張って芽を出すのは非常に大変だけれど、一度根を張ってしまえば強い。つまり若い時の苦労は買ってでもせよという意味だ。

「若い経営者の人たちには、この2つの言葉を送りたい。そして、売上や利益も大切ですが、同じく“心の黒字”も大切に考えて欲しい」

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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