ベンチャーをサポートする法知識[1]

【ベンチャー企業法務】起業家がまず取り組むべき課題〜適法性確認と3つのリスク〜

GVA法律事務所

弁護士

鈴木 景

編集/武居直人(リブクル) | 2018.06.26

起業家の方がビジネスを始めるにあたり、切っても切り離せないのが、そのビジネスの適法性に関する検討です。ここでは、ビジネスの適法性確認について、その概要や潜むリスクについてご紹介します。

GVA法律事務所 弁護士 鈴木 景(すずき けい)

2009年弁護士登録。都内法律事務所、企業法務部を経て、17年、GVA法律事務所に参画。ベンチャー企業のビジネス構築や、国外進出、企業間のアライアンス等を法務観点からサポートしている。

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■適法性確認をしない場合のリスク

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おそらく、これからビジネスを始めようとされる方は、なんとなく「適法性を確認しておかないとならないだろうな」という感覚はお持ちではないかと思います。そして、その理由の最も大きいものは、刑事罰や行政罰が課せられる可能性があるから、というところかと思います。

では、これ以外にビジネスに与える影響として、どのようなものが考えられるでしょうか? 想定できる3つのリスクを紹介します。

 

1.撤退せざるを得なくなるリスク

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やろうとしているビジネスが法律に違反している場合、ビジネスをピボットせざるを得なくなるケースがあります。

なんとか方法を変えることで規制をクリアできるのであれば、撤退まではしなくてよいこともあり得ますが、そもそものビジネスの根幹部分が法律に違反している場合には、撤退も視野に入れざるを得ないこともあります。この場合、せっかく費用や時間をかけて事業を開発したり、営業したりしたにもかかわらず、投下したコストが無駄になってしまうというリスクが考えられます。

具体例として、例えば、道路運送法に違反するという理由で、日本ではライドシェア(タクシーなどの相乗りマッチングサービス)が普及していないという現状があります。

また、大阪では、リムジンによる周遊事業について、同じく道路運送法に違反するとして摘発されたという事例もあります。

リムジンの周遊は、一般的には「法律に違反するの?」というような感覚を持ってもおかしくないところではあります。このように、「大丈夫じゃないか」という感覚に頼り、イケイケドンドンで事業を進めていくと、思わぬ規制により、これまでかけたコストを回収できないままに事業を撤退しなければならないこともありますので、注意が必要です。

 

2.投資を受けられないリスク

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スタートアップの場合、投資家に対して株式と引き換えに資金を投資してもらう形での資金調達をするケースが多いと思います。

このようなケースの場合、投資家と企業との間で投資契約を締結することになりますが、この投資契約書の中で、企業や経営者は「そのビジネスが適法であること」を投資家に約束させられます(これを「表明保証」といいます)。

投資家は、企業や経営者が、「自分のビジネスは適法である」ことを投資家に対して約束しているから、その約束を信じて投資をするわけです。

ですから、そのビジネスの適法性が確認できていない場合には、ビジネスの適法性について投資家に対して約束をすることができず、そもそも投資を受けられない可能性が高いといえます。

また、仮に適法性が確認できていないにもかかわらず「適法である」ことを約束してしまった場合に、最終的にそのビジネスが違法であると判断されてしまったら、約束に違反したペナルティとして、投資額全額、場合によってはそれ以上の金額で、株式を買い取らなければならなかったり、損害賠償をしなければならなかったりといった不利益を被ることがあります。

スタートアップが短期間で事業をグロースさせるためには、投資家からの資金調達が必要不可欠ですから、これが受けられないというリスクは非常に大きいものといえるでしょう。

 

3.バイアウト、IPOに支障が生じるリスク

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投資家からの資金調達を受けずに、全て自前で事業をグロースさせていくケースであれば、上記2.のリスクにさらされることのないまま、バイアウトやIPOといったイグジットを迎えるということもあるでしょう。

ですが、仮に適法性の審査がされていない場合、イグジットに支障が生じる可能性があります。

バイアウトによるイグジットの場合、買い手サイドから、企業の状態についての調査(デューディリジェンス)がされます。その調査の中で、そのビジネスが違法ではないか、適法性について確認がされているか、という点について問い合わせがされることがほとんどです。

その際に、適法性が確認できない、または違法である可能性がある(もしくは高い)ということになると、売却価格が下げられてしまったり、最悪の場合、企業売却の取引が中止になることもあり得ます。

また、IPOしようとする際にも、ビジネス自体に違法となる可能性がある場合には、その適法性について審査がされることもありますが、その際に適法性が確認できない場合には、上場に待ったがかけられることも考えられます。

このように、適法性について確認しないままビジネスを進めた場合、刑事罰・行政罰以外にも種々のリスクが考えられますので、適時適切に、適法性を確認しておくことをおすすめします。

 

■注意しておきたい法律

適用される法律は、ビジネスモデルごとに異なるところですが、特に気をつけておきたい法律の種類を以下ご紹介します。

 

1.業法

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一般に「○○業」についての規制を定めている法律を一括りにして、「業法」と呼びます。

例えば、「飲食業」については、食品衛生法などの法律によって規制が定められています。

同じく、「旅行業」については、旅行業法によって、「保険業」については、保険業法によって、それぞれ定められています。

これらの業法では、一定の事業についての許認可や資格などが定められていたり、違反した場合の罰則などが定められていることが一般的ですので、この点は特に慎重に確認する必要があるでしょう。

特に昨今では、テクノロジーによって既存の業界を変えていく、といった新しいビジネスが増えてきていますが、そのようなビジネスを始める際にも、既存ビジネスを規制する業法に抵触しないかを確認することはマストといえます。

最近では、経済産業省にて「グレーゾーン解消制度」という制度が運用されています。これは、各種業法において解釈の幅があるものや、適用されるか否かが不明な規制について、経済産業省と監督官庁とが、当該事案を前提とした一定の解釈を示す、という制度になります。

具体的な例は、こちらをご参照ください。

<参考:経済産業省>新事業特例制度及びグレーゾーン解消制度の活用実績

業法の適用の有無などについて疑義がある場合には、このような制度を利用することで、適法性を確認することもできます。

 

2.知的財産権関連法

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例えば、メディアを使った情報提供サービスを行おうとする場合には、他人のコンテンツを流用して記事を作成すると、著作権侵害の可能性があります。

また、ソフトウェアの開発の場合に、第三者が作成したソースコードを流用した場合にも、著作権侵害の可能性があります。

他人の特許技術を勝手に使って物品を製造した場合には「特許権侵害」が、他人が考案し意匠登録されたデザインを勝手に使って物品を製造した場合には「意匠権侵害」がそれぞれ問題となります。

加えて、著名なブランドにタダ乗りして商品を製造販売した場合には、不正競争防止法に違反する可能性もあります。

このように、ビジネスを進めるにあたっては、知的財産権関連の法律にも注意しておく必要があるでしょう。これらは紛争化した場合、「類似しているか否か」といった点が争点となるケースが多く、裁判所の判断も予見しにくいため、紛争化しないように予防しておくことがとても重要といえます。

 

3.個人情報保護法

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個人情報に対する意識の高まりが顕著な昨今では、個人情報保護法にも、相当の注意を払う必要があるでしょう。特に漏洩事案などの事故が発生した場合には、SNSなどによって瞬時に拡散され、大きく炎上する可能性が高いといえます。

この点は、セキュリティ対策とともに、プライバシーポリシーの充実や、個人情報保護法に違反することのないよう、最新の注意を払って対応することが必要となります。

 

まとめ

いかがでしたか? 今回は、ベンチャー起業時の適法性確認の重要性やリスクについて解説しました。当記事でご紹介した内容が、起業を考えているみなさまの一助となれば幸いです。

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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