スーパーCEO列伝

ヒットの極意は“シンプル”にあり!

C Channel株式会社

代表取締役

森川 亮

写真/宮下 潤 文/髙橋光二 マンガ/M41 Co.,Ltd | 2016.06.10

「ハンゲーム」を日本最大級のオンラインゲームコミュニティに育て上げた、森川亮氏。東日本大震災の発生を機に「LINE」をリリースする。5年が経過し、累計登録ユーザー数は全世界で10億人を数え日本発のサービスとして空前のヒットを続けている。

そして今、スマートフォンに特化した女性向け動画メディア「C CHANNEL」をスタートさせ、わずか1年で月間動画再生数1億を突破。世界最大のメディアを目指して新たなチャレンジを始めている。その成功哲学は「シンプルに考える」こと。ヒットを生む、シンプルな方法論を聞いた。

C Channel株式会社 代表取締役 森川 亮(もりかわ りょう)

1967年、神奈川県生まれ。1989年筑波大卒業後、日本テレビ放送網株式会社に入社。1999年青山学院大学大学院国際政治経済学科でMBAを取得。その後ソニー株式会社にてブロードバンド事業に携わり、2003年ハンゲームジャパン(現LINE株式会社)入社、2007年に同社代表取締役社長に就任。2015年3月、代表取締役社長を退任し、アドバイザーとして顧問に就任。同年4月よりC Channel株式会社代表取締役社長に就任。

森川亮が考えるヒットを生み出すシンプルな方法論

表面的なことに惑わされることなく、「何が本質か?」を考え尽くす。そして、余計なことはすべて切り捨て、最も大切なことに全力を集中させる。森川氏がやってきたことは、その一点に尽きる。

01“いいモノ”をつくる

“いいモノ”とは、自分がいいと思うモノではなく、ユーザーがいいと思うモノのことです。では、いまのユーザーはどういったモノが“いい”と思うのか。私は、機能の豊富さよりも、シンプルでわかりやすいモノではないかと確信しています。なぜならば、いまは身の回りにモノや情報が溢れ返っていて、ユーザーは何を選べばいいかよくわからない状況になっているからです。みんな忙しいので、パッと見た瞬間、“わかりやすい”と思えなければスルーされて終わりです。


あのスティーブ・ジョブズは「洗練を突き詰めると簡潔になる」というレオナルド・ダ・ヴィンチの言葉を信奉していました。追放されたアップルに復帰した際に30種類ほどあったパソコンをたった4種類だけに絞り込み、その中からディスプレイ一体型のiMacを大ヒットさせたという有名なエピソードがあります。そして、シンプルなデザインのiPhoneやiPodを生み出しました。まさに「洗練を突き詰めると簡潔になる」いい例だと思います。

日本の製品は機能が豊富なものが多いですね。つくり手は、機能は多いに越したことはないと信じているように思います。しかし、いまはつくり手の思いが強すぎると、引いてしまう人が多い時代なのではないかという気がしています。


02“早く”つくる

インターネットが発達し、ものすごい勢いで情報が拡散し、フルスピードで環境が変化する現代。いくら“いいモノ”でも、時間をかけてつくっていては、出来上がった頃にはもう時代遅れ、という事態になりかねません。そして前述のとおりモノが溢れ返っていますから、人々は気分でモノを選んでいます。ですから、何がヒットするのか誰にもわからないのではないでしょうか。

そんな時代ですから、市場調査をし、分析し、商品企画をし、収支予測をし、会議を開いて意思決定する、などという手続きに時間をかけているうちにチャンスを逃してしまうのです。ですから私は、何か思いついたら即座につくってパッと市場に出すというぐらいの感覚で臨むべきではないかと思っています。ユーザーは“いま”“早く”欲しいんですから。それがユーザーのニーズです。つくり手の慎重な意志決定など、ユーザーにとってはどうでもいいこと。むしろ、無駄でしかありません。


03優秀なスタッフを集める

“いいモノ”を“早く”つくるには、それなりの能力が必要です。自分一人では、なかなかつくれないでしょう。ですから、高い能力を持つ優秀なスタッフを集めなければなりません。インターネットサービスの場合は、エンジニアやデザイナーなど各分野でトップクラスの人材を採用する必要があります。

しかし、人材不足のいま、どの経営者も人材採用には頭を痛めているのが実情。どうすれば採用できるかといえば、まずは高いビジョンを掲げることが大切だと思います。「こんなサービスをつくりたい」というビジョンでは、「そんなサービスはイヤ」とそっぽを向かれる可能性が大きいですが、「日本をよくしたい」という大きなビジョンならば、あまり反対する人はいないと思います。

もう一つ、“情熱”が絶対に重要です。「そこまで熱く考えているなら、力を貸してやろう」と思ってもらえることです。そして、真剣に日本をよくするためになりふり構わず突き進んでいると、隙だらけになることがあると思います。でも、その“隙”が人間味のある愛らしさになる。完璧で冷徹な人より、どこか隙もあるけど情熱的な人の方が協力者が集まるのではないでしょうか。

04柔軟に変化する

日本人には、一度決めたことがそのとおりに進まないと気持ち悪く感じる人が多いように思います。しかし、世の中は激しく変化しています。決めたことにこだわり過ぎると、変化についていけなくなってしまいます。あのダーウィンは、「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残るのは、変化できる者である」という有名な言葉を残しました。ものごとにこだわらず、一番早く変わることができる人が最も生き残れる可能性が高いのです。

しかし、“目的”や“軸”がブレてはいけません。ゴールは変えず、そこに至るルートや到達法を変えるのです。山に登るのに、歩いていくより空を飛んだほうが早ければ空を飛べということです。

もう一つ。“成功は捨てる”ということ。成功すると、人は守りに入ろうとします。地位や名誉やお金を守ろうとする。同じことをやることに執着し始める。すると、その間に新しいモノが出現し、ユーザーのニーズも変化し、気づいた時には時代に取り残されてしまうのです。他人に自分の成功したモノを時代遅れにされるぐらいなら、自分が壊したほうがいいぐらいの気概が必要だと思います。


05がむしゃらに働く

LINEを成功させ、よく私は「どうすれば楽をして成功できるか」といった主旨のことを聞かれるようになりましたが、そんなものは、ありません。成功するためには、何かを捨てなければならないのです。趣味の時間、楽しいことをする時間、睡眠時間、など。そういった時間を犠牲にすることを厭わずに突き進む情熱がなければ、成功など得られるはずはないということです。成功する人は、いろんなものを犠牲にして人一倍努力しているからです。

逆に考えれば、もっとわかりやすいでしょう。何も犠牲にせず、普通に楽しく生きて成功しようとしている人に、あなたはついていきたいと思いますか? 自分の能力を提供してやろうと思いますか? ということです。

自分のことは差し置いて、人が幸せになるために必死に努力し続けられる人のところに、成功は訪れると思います。「自分のために何かをする人は、敵をつくる。他人のために何かをする人は、仲間をつくる」。最近私があらためて感じていることです。

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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