スーパーCEO列伝

“好き”と“夢中”が発展の起爆剤

株式会社ビームス

代表取締役社長

設楽 洋

写真/宮下 潤 文/髙橋光二 マンガ/M41 Co.,Ltd | 2015.12.10

学生時代、アメリカの生活文化に胸を焦がす。これを日本に紹介する店をつくろうと、1976年、東京・原宿に6.5坪の「アメリカンライフショップ」をオープン。日本を代表するセレクトショップ「BEAMS」の誕生である。

以来、流行り廃りの激しいファッションの世界に身を置きながらも、2016年に40周年を迎える。ひとつとして同じものがない店舗は、全国に120店以上。そして次には“日本”をセレクトする店をつくり海外展開を伺うステージを迎えた。

「何よりも“好き”であることを徹底的に大切にし、人々の“手の届く幸せ”を提供する」など設楽氏の経営哲学、経営ノウハウに“奇跡”といわれる持続的発展の要因を探る。

株式会社ビームス 代表取締役社長 設楽 洋(したらよう)

1951年、東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。75年、株式会社電通入社。プロモーションディレクター、イベントプロデューサーとして数々のヒットを飛ばす。76年、ビームス設立に参加。83年、電通退社。自らをプロデューサーと位置付け、あらゆるジャンルのムーブメントを起こす仕掛け人。個性の強いビームス軍団の舵取り役。

設楽洋に聞く成長し続けるための経営術

移ろいやすいファッショントレンドやカルチャーを追い求める顔と、企業を成長させる経営者の顔。両面のバランスを絶妙に取り、時代の波に乗り続ける感覚が設楽氏の真骨頂。そのエッセンスとは?

トレンドからの“引き際”を誤らない

ファッションの世界は、“流行り廃り”が付き物。流行に乗れば、一時に大儲けができます。しかし、流行が過ぎ去れば、大量の在庫の山が残ることにも。その引き際を誤らないことと、“コクとキレのバランス”を大切にすることがこの世界で長続きさせるキモだと思っています。

ファッションとは、川の流れのようなものです。その上面には、まさに流行しているモノが勢いよく流れていて、一瞬にして目の前を通り過ぎます。その瞬間だけ扱えば“一発屋”ですが、少しずつライフスタイルに浸透するものも出てきて、それを50年、100年扱い続ければ“老舗”となるのです。つまり、ファッションは両極端の構成要素からなっています。

ビームスは、その両極端さが大好き。トレンディーなものは、いわばビールのような鮮度を重視した“キレ”。定番的なものは、ブランデーやワインのように、時間の積み重ねを重視する“コク”のようなもの。前者だけではお客が定着せず、後者だけではお客に振り返ってもらいにくい。両方のバランスが大事なのです。


努力は夢中に勝てない

一般的に、社員が仕事に満足するためには、やりがいがあるか、高収入であるかのどちらかが必要でしょう。しかし、ビームスの場合は、“ビームスが好きでたまらない”というモチベーションが決定的な要素となっています。

そもそもセレクトショップとは、“好き”という軸でセレクトした商品に「この指とまれ」と人を集める事業体です。つまり、ビームスは、ビームスが好きな人によるコミュニティといえます。好きなことには夢中になる。夢中になればモチベーションが上がり、夢中に取り組むことが成長をもたらします。“努力は夢中に勝てない”と思っています。

ある社員を新しいプロジェクトにアサインした時、「毎週火曜日はサーフィンに行くので、そこを休めなければ断る」と言われたんです。それを聞いて、社員の幸せの形はいろいろだと再認識し、“副業OK”“週休3~4日OK”ということも考えるようになりました。自分のやりたいことを大事にしながら、ビームスとは関わり続けたい。そんな人こそ、最も面白いモノを生み出してくれると確信しているからです。


短期的な利益より、面白いことの追求

ビームスにも当然のように事業計画、経営計画はありますが、それよりも自然発生的な、いわば“時代のニーズ”に対応した展開を優先しています。メンズライクな女性服を欲しがる女性が現れれば、メンズを得意とするビームスとしてニーズに応え、子どもが生まれた社員が「カッコいい子ども服がない」と感じれば、ビームスらしい子ども服をセレクトした店をつくります。

そんな調子で時代の先を追う部門は、いわば実験場で、いつまでたっても赤字。しかし、絶対に必要な赤字です。目先の利益を追求するだけなら、そんな非効率な部門はムダなだけかもしれません。

だから、ビームスは上場しないと決めています。上場すれば、短期的な利益を求める株主のほうをどうしても見てしまい「非効率な部門は真っ先に切れ」という要求に応えざるを得なくなるからです。あくまでも、生活者のほうを見て店づくりをし続けています。ただし、株式上場にもメリットはあるので、後任の経営者がそれを選択することを反対するつもりもありません。

一店舗一店舗を手づくりする

規模が小さいうちは、尖がったニッチターゲットを相手にしているだけでも回せるので、店のコンセプトは好きなだけ尖がらせていられます。しかし、規模が大きくなるにつれて、徐々に尖った人以外のお客も取り込んでいかないと回せなくなる。そうすると、尖がったお客は離れていってしまうんです。このバランスがファッションに関わるビジネスの難しいところ。

ビームスは120店舗以上展開するチェーン店ですが、チェーンストア理論は採用していません。チェーンストア理論は、成功した店のフォーマットで多店舗展開し、いわば“一粒で二度三度おいしい”モデル。しかし、そのパターン化とはすなわち“陳腐化”そのもの。飽きられるし、面白くない。

だから、ビームスは一店舗一店舗、手づくりです。手間はかかるし、外してしまうリスクもありますが、ファッションに最重要の“鮮度”や“バリエーション”は極めて豊富です。ビームスには、アメリカンカジュアルも、モードも、トラッドも、ストリートもあります。いわば“100人100通りのビームス”があるのです。

 

リーダーとは“夢を与える”存在であること

ファッションの世界で長続きできている要件を聞かれますが、世の中や社員、その家族などに夢を与えてこられたからではないかと思っています。手を伸ばせば届く、好きなスタイルで生活できるという夢を。

そのために私自身がミーハーで軟弱でありつつも、いつもパワフルであることを心掛けています。64歳にもなって「夜中の3時ですが、これから飲みにいきます!」なんてFacebookに投稿したり(笑)。いつまでも、そのように明るく軽やかでいたいですね。

今の夢は、社員がもっと自分の好きな世界を大切にして、そこからいいモノを発信してもらい、ビームスをもっともっと“好き”の集大成にしていくこと。そして、2016年4月に始動する日本のモノ・コト・ヒトをキュレーションするプロジェクト「ビームス チーム ジャパン(BEAMS TEAM JAPAN)」を成功させること。これは、ビームスが日本の名品や文化をセレクトして発信するプロジェクトで、海外展開も目論んでいます。世界に日本文化の素晴らしさを伝えることに、ワクワクしているところです。

BEAMSのターニングポイント

同じパターンをつくらずに、全国に140以上、多彩な店舗展開を続けるビームスの転換点といえるお店を紹介。

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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