スーパーCEO列伝

真のオタクは創造的に消費する

DMM.comの新社長、ピクシブ創業者のオタクな素顔

合同会社DMM.com

代表取締役社長

片桐孝憲

写真/宮下 潤 文/髙橋光二 マンガ/M41 Co.,Ltd | 2017.04.10

大学中退後、独立しオリジナルサービスを模索。そうしたなか、2007年にイラストコミュニケーションサービス「pixiv」を立ち上げた片桐孝憲氏。これが瞬く間に大ヒット。
1日約2万6000点もの作品が投稿され、月間利用者数のべ約4000万人、10年間で全世界にユーザー約2000万人を数える巨大サービスに発展。一躍、IT業界の寵児のひとりとなった。

その片桐氏が、2017年1月よりDMM.com及びDMM.comラボの代表取締役社長に就任するという電撃的なニュースが駆け巡った。2012年に共通の知人であるチームラボ代表の猪子寿之氏を介して、DMM.comの創業者で現会長の亀山敬司氏と出会い、交友を重ねた片桐氏。

そして、55歳の亀山氏から、従業員数約2700名のDMMグループの中核である2社の次なる発展を担える人材は34歳の片桐氏しかいないと託される。安定成長を続けるpixivを離れ、「ジェットコースターに乗るような人生こそ面白い」とチャレンジを続ける片桐氏に、経営や人生の哲学を聞いた。

合同会社DMM.com 代表取締役社長 片桐孝憲(かたぎり たかのり)

1982年、静岡県浜松市生まれ。高校時代から起業を志向し、2000年にインターネットと出合い、大学在学中からウェブ制作会社で働き始め、デザインやプログラミングを習得。クリエイターを目指すなか、知人からECサイト構築を依頼され、課題解決のためのソリューションが得意であることを自覚。2005年に大学を中退し、2名の仲間とウェブ制作会社を創業(現:ピクシブ株式会社)。ホームページの受託制作を始めるが、会社の規模を拡大させるために自社サービスの必要性を感じ試行錯誤。2007年、5つめにリリースしたイラストコミュニケーションサービス「pixiv」が大ヒット。2008年にピクシブ株式会社に社名変更し、本サービスに集中特化する。10年間で全世界に約2,000万人のユーザーをもつ巨大サービスに育て上げた。2017年より株式会社DMM.com及び株式会社DMM.comラボ 代表取締役社長に就任。

異端児の頭の中をのぞき見
片桐孝憲が考える 仕事を楽しむ5つの思考法

生き物が好きで、釣りが趣味の片桐氏。これまで南米アマゾン5回のほか、スペイン、イランやコンゴなどにまで足を伸ばすという本格派である。仕事や趣味を通し、チームワークの素晴らしさや“オタク”の底力を実感。そんな人生経験も含め、自身の経営哲学となるキーワードを伺った。

01チームで1つのことをやる

よくヒトがやりたがらないことが商売になりやすいと言われています。今は正反対に思っています。ヒトがやりたがらないことは、ロボットが代替する世の中になるからです。人間が心底やりたいと思ってやることは、ロボットに代わりにやってもらう必要がない。エンターテインメントの世界は、その典型です。

私が好きなのは、釣りでも個人でやるのではなく、チームで目的の生き物を探すこと、見つけること、捕まえること、釣ることです。

趣味の話ですけれど、これって仕事にもそのまま応用できますよね。それに、仕事は日々の積み重ねなので、後々思い出せることって少ないんです。でも移動して何かを獲ったことなんかは、ずっと記憶の真ん中に残っています。そんな思い出がたくさんある人生の方が豊かだと思うんです。

02真の“オタク”こそ優秀

私は地球の裏側にまで釣りに行く、“釣りオタク”なのかもしれません。だからといって言うわけではありませんが、“オタク”には優秀な人材が非常に多いと実感しています。“知性”とは、すなわち“オタク性”ではないかと思います。

ただし、ただ何かが好きでのめり込んでいるだけの人は“オタク”とは呼びません。私のいう“オタク”とは、好きであることが高じて、オリジナルなモノや方法をつくり出す人を指しています。

例えば、ある知人の男性はアイドルオタクですが、彼はそのアイドルの全国でのライブでいかに最前列の席を確保するかを徹底的に研究し、軒並み成功させていました。すべてのライブのチケットをただ買うだけに止まらないのです。私はこれを“創造的消費”と呼んでいますが、“オタク”はまさに創造的消費を通じて優れた能力を獲得しているのではないかと考えています。

そのことと関連するのですが、私がこれまで会ってきた頭の良い人に共通するコンピテンシーがあって、それは “好奇心”と“寛容性”なのです。知性というのは好奇心と寛容性によって成り立っているのではないでしょうか。

03ルールや制度より雰囲気づくり

組織を適切に運営していくのはルールが必要ですが、なんでもかんでもルールを作って成果をだすことを目指すよりも雰囲気で問題解決や目標を達成できるような組織作りのほうが理想だと思います。

ビジネスアイディアを出す仕組みをつくることより、ビジネスアイディアを気軽に共有できる雰囲気だったり、問題を起こさないためにセキュリティを強化するより、個人個人の意識作りのがほうが意味があると思っています。

04自分に関する101個のキーワードを考える

組織が大きくなれば、経営者ひとりではとても回せなくなりますから、メンバーに任せることになります。任せるためには、そのメンバーについてよく知っていることが大前提になると思います。

知らずに任せるのは、“丸投げ”や“放置”に近い無責任さを伴うからです。相手の得意不得意、強み弱みをよく知っているからこそ、「全面的に任せよう」とか「あえて不得意のことを、様子を見ながら教育的に任せてみよう」といったマネジメントができるのではないでしょうか。

そこで、ピクシブでは社員がお互いのことをよく知る手がかりとするために、自分のキーワードを101個書き出してもらい社内で共有していました。101個には、深い意味はありません。ただ、10個ぐらいではつくってしまいそうで本人の“素”が出づらくなるのと、100個より101個のほうが、意味がありそうということです(笑)。

「このキーワードの意味って?」と相手に尋ねることで、会話の端緒が開け、101個を次々に聞き出せば相手のことがよくわかってくるという仕組みです。なかなか効果的ですよ。

05“死”について思いを巡らす

私には落ち込んだ時に、元気になる方法があります。失敗したり、嫌なことがあって落ち込むと、ネットで怖い話を見るんです。その“怖い”という感情が“死”に直結するので、自分もいつか100%確実に死ぬ、ということが意識できます。すると、「いつか死ぬんだから、今がんばるしかないだろう」とポジティブに思えてくるんです(笑)。

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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