スーパーCEO列伝

【特集】株式会社一家ダイニングプロジェクト Interview with CEO

居酒屋で培った「おもてなし力」を武器にブライダル事業へ 社員とともに歩んだ20年

株式会社一家ダイニングプロジェクト

代表取締役社長

武長太郎

写真/宮下 潤 文/蜂谷智子 | 2018.04.10

株式会社一家ダイニングプロジェクトは、「こだわりもん一家」や「屋台屋 博多劇場」といった居酒屋を運営する企業。2012年にはブライダル事業にも参入し、2017年12月には東京証券取引所マザーズへの上場も果たした。

外食産業が斜陽といわれるなか、代表取締役社長の武長太郎氏は20年で一家ダイニングプロジェクトを、時価総額130億円を超える上場企業へと育てた。母親の経営する飲食店の手伝いを経て20歳で起業し、大きな経営危機も乗り越えてきた彼の哲学は、どのようなものなのだろうか?

株式会社一家ダイニングプロジェクト 代表取締役社長 武長太郎(たけなが たろう)

1977年生まれ、千葉県出身。1997年10月、有限会社ロイスカンパニーを設立し、代表取締役社長に就任。「くいどころバー一家(現こだわりもん一家)本八幡店」を皮切りに、次々と飲食店を出店。2000年には商号を「株式会社一家ダイニングプロジェクト」に変更し、株式会社化。2012年に結婚式場「The Place of Tokyo」をオープンし、ブライダル事業にも進出。起業から20年目となる2017年12月12日に東京証券取引所マザーズに上場。

居酒屋からブライダルへ 社員と一緒に越えた事業展開の壁

株式会社一家ダイニングプロジェクトは千葉県で起業した外食企業で、「こだわりもん一家」や「屋台屋 博多劇場」を東京、千葉、埼玉に展開。一方で2012年には港区、それも東京タワーの真下というロケーションにブライダル施設「The Place of Tokyo」をオープンしている。

「屋台屋 博多劇場」

「The Place of Tokyo」

日常に身近な存在の居酒屋と、フォーマルで特別な場である結婚式場。一見すると方向性の異なる2つの業態だが、経営のなかでどのように位置付けられているのだろうか。

「当社の展開している店舗は、居酒屋というジャンルに当てはまるようにつくった店ではありません。我々が真っさらな状態で『地域にこんなお店があったらいいな』と思い描いたものを実現した結果、今の業態になったのです。それがたまたま、居酒屋にカテゴライズされている。

『The Place of Tokyo』に関しても、一生涯に一度の結婚という日に、我々が提供したいと思い描いた“おもてなし”が、ブライダル業界に属しているだけ。シーンが違えども、僕の中でその両事業に区別はないのです」

創業社長の武長氏は自社を“日本一のおもてなし集団”を目指す企業だと自負している。「こだわりもん一家」や「屋台屋 博多劇場」で培った「おもてなし力」は、他の分野でも通用すると信じ、ブライダルに参入したのだ。

実際に、ブライダル参入当初、スタッフはほとんど既存の居酒屋で働いていた人材を登用。居酒屋の店長がウエディングプランナーになり、キッチンの責任者がフルコースをつくる総料理長になった。

居酒屋仕込みの“おもてなし”はブライダル業界でどう生きたのか

実は「The Place of Tokyo」をオープンし、ブライダル事業に参入した当初は、一度は式場を契約した顧客から、母体の事業が居酒屋だということを理由にキャンセルされた悔しい経験もあったという。しかし彼らは歯を食いしばり、居酒屋仕込みのおもてなし力を証明した。

現在では年間婚礼件数が574件(2017年実績)、口コミサイト「ウエディングパーク」では、東京都内施設で総合9位(2017年11月時点)という高評価を得る。同サイトへの登録施設は東京都だけで900以上、ランキング上位には帝国ホテルやホテル椿山荘東京などが名を連ねる。「The Place of Tokyo」は、たった5年で老舗ホテルに並ぶ施設に育った。この成功の鍵は何だったのだろうか。

大きな窓の向こうに迫る東京タワーが印象的な「The Place of Tokyo」のバンケットルーム。

「居酒屋では、入口から席までのご案内、メニューのお渡し、調理、配膳……など、お客様のご来店からお帰りになるまでに多くの人間がかかわり、チーム全体が『お客さまを喜ばせたい』という想いでおもてなしをします。滞在する2時間ほどの間、快適に楽しくお過ごしいただき、お帰りになる時に、『この店は良かった。また来たい』と思っていただくには、ひとつの想いを共有した“チーム”による連携が不可欠。

居酒屋で培ってきたチームワークを、ブライダルでもそのまま生かそうと思ったのです。その結果、ブライダル施設内では『ALL for ALL』というスローガンが生まれ、かかわるたくさんのスタッフが同じ想いを持って結婚式を作り上げてこられたことが、今の業績や評価につながっていると考えています。もしも僕がブライダルと居酒屋を別のサービス業としてとらえ、他に追従するような経営をしていたら、『The Place of Tokyo』の強みも出ていなかったでしょう」

居酒屋と比べてブライダルの場合は、プランナーをはじめ、式の司会やメイク、ドレス、装花など、さらに多くの分野の専門家が入ってくる。一家ダイニングプロジェクトでは、会場の案内から成約、挙式当日までのプランニング、パーティー運営などのサービスに一貫性が保たれるよう、スタッフ間の連携を重視するという。

「みんなでひとつのパーティーをつくっていく意識が、ほかの会場より『The Place of Tokyo』は強いと思うんです。自分の家族の結婚式だと思って、新郎新婦の2人がかなえたいスタイルや、2人がどういうふうにゲストをおもてなししたいか、ということを考え抜く。そこに僕らはとても力を入れています」

お客様が帰ってくる「第二の我が家」でありたい。 徹底したおもてなしの精神を育てる社内環境づくり。

また、結婚式を挙げて終わりではなく、顧客との間にその後も続いていく関係を築いている、と武長氏は語る。

「結婚式には基本的にリピーターがいませんし、ゲストとしてお越しになった方が同じところで挙式することもあまりありません。しかし我々は、一組の新郎新婦に何度でも足を運んでもらえる式場でありたい。

結婚式を挙げたら終わり、では寂しいですよね。ですから、結婚1周年でディナーのご案内をしたり、お子さまが生まれたご夫婦向けに、ママさんが楽しめる『KOYORI』というイベントをやったりなど、結婚式の後もたくさんの企画を行っています。そうやって、“点”で終わってしまうような結婚式を“線”でつないでいこうという考えをもっているのです」

居酒屋経営で培ったおもてなし力をブライダルでも応用したこと。そして、異分野から参入したことでブライダルの常識にとらわれないサービスができたこと。それらが「The Place of Tokyo」成功の根底にある。

「こだわりもん一家」の接客の様子。

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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