スーパーCEO列伝

【特集】SBIグループ Practical

さらなる成長のカギは顧客の健康管理にあり【SBI生命保険/SBIグループのFinTech活用法】

SBI生命保険株式会社

代表取締役社長( 2018年6月取材時 )

飯沼邦彦

文/大西洋平 写真/鶴田真実 | 2018.06.11

ヘルステックベンチャー「FiNC」との業務連携をはじめ、さらなる成長のカギは顧客の健康管理にあるとする「SBI生命保険」。FinTechの導入・活用実例とともに今後のビジョンについて聞いた。

SBI生命保険株式会社 代表取締役社長( 2018年6月取材時 ) 飯沼邦彦(いいぬま くにひこ)

1967年生まれ、千葉県出身。慶應義塾大学理工学部数理科学科卒、あさひ(現・りそな)銀行に入行。その後、一橋大学大学院国際企業戦略研究科金融戦略専攻修士課程修了、総合研究大学院大学(統計数理研究所)複合科学研究科統計数理専攻博士課程修了。シグナ・インシュアランス・カンパニー、チューリッヒ・インシュアランス・カンパニー、 RBS証券、UBS 証券などを経て、2013年にSBI ホールディングスに入社。生保準備室副室長に就任後、15年から現職に。

業界最安水準の保険料と分かりやすい商品設計で支持を集める

様々な金融サービスを展開して各分野でトップの実績を誇っているSBIグループだが、実は自前の生命保険を手がけるようになったのは比較的最近の話だ。

もっとも、SBIグループは2008年に日本初のオンライン生命保険を創設したが、時期尚早と判断し、アクサジャパンホールディングに売却したのだ。その後、英国プルーデンシャルグループより日本法人であったピーシーエー生命を買収。SBI生命として2015年2月からSBIグループの一員となり、2016年2月から独自開発の新商品を取り扱うようになった。

「幅広い金融サービスを展開してきたSBIグループにおいて、唯一欠けていたのが生命保険の分野でした。当社が加わったことで、SBIグループの金融生態系が完成しました」

SBI生命保険代表取締役社長の飯沼邦彦氏はこう語るが、つまり、SBI生命が実質的に産声を上げたのは、まだ2年余り前のことにすぎないのだ。にもかかわらず、同社の主力商品のひとつであるインターネット申込専用定期保険「クリック定期!」は、保険商品の比較サイトである保険市場(アドバンスクリエイト運営)が調査した「2018年版 昨年最も選ばれた『保険ランキング』」(2017年1月1日~12月31日)の死亡保険・定期保険(資料請求)部門で第1位に輝いている。

人気の理由は単純明快で、シンプルな商品設計と業界最安水準の保険料が大きな魅力になっているからだ。金融商品の中でも保険は特に専門性が高く、様々な特約があらかじめセットされるなどして、自分にとって本当にふさわしい内容の保障なのかどうかを判断しづらいケースが多い。保険料の負担も小さくない割には、さほど必要としない保障内容が付帯されていることもある。

「心配だからとりあえず加入しているけれど、保険料が負担で……」という不満は、保険契約を結んでいる人なら、誰しも大なり小なり感じていることではないだろうか? これから加入しようと思っている人たちにも、周囲からそんな不満が漏れ聞こえてくるからこそ、安くて分かりやすい内容の「クリック定期!」がナンバーワンの支持率を獲得しているわけだ。

2016年2月、SBI生命が自社開発の新商品を取り扱うようになった際に投入したのは、前述の「クリック定期!」を含む3つの保険だ。残る2つは、入院や手術、通院治療から在宅医療までカバーする終身医療保険「も。」と、個々のニーズに応じて保障を必要とする期間を5歳刻みの年齢で設定できる「今いる保険」である。これらも非常に分かりやすいコンセプトになっており、SBI生命としての創業年度である2016年は3商品の販売が好調に推移した。

団体信用生命保険でも画期的な商品を投入

そして、2年目となる2017年6月に投入したのが、画期的な団体信用生命保険である。団体信用生命保険とは「団信」と略されることも多く、住宅ローンを組む際に加入を求められる保険である。完済を前にして契約者に万一のことがあった際には保険金が支払われ、ローンが完済される。遺された家族が住宅ローンの返済に困ることのないようにつくられた保険商品だ。

当たり前だが、保険料が高ければ、ローンを組む側の月々の負担もそれだけ増してしまう。SBI生命の団体信用生命保険は、業界最安水準の保険料でこうしたニーズに応えた上で、さらに先進医療給付金などの特約を充実させている。しかも、所定の先進医療による療養を受けた場合には、その技術料の被保険者負担額分が通算1000万円まで保険金として支払われるので、ローン返済中の経済的負担が軽減される。

そして、SBI生命の団体信用生命保険には就業不能時の保障までセットされている。死亡時と同様に、契約者が病気やケガで働けなくなると就業不能保険金が毎月支払われ、それがローンの返済に充てられるのだ。

「この団体信用生命保険は、SBI生命を立ち上げる前から構想を温めてきた商品です。競合する既存の商品は8大疾病への保障に限定されていることが多いのですが、この商品は全疾病を対象とすることで、お客様により大きな安心を提供しています。

また、現在、SBI生命の団体信用生命保険および団体信用就業不能保障保険は、SBIグループの一員である住信SBIネット銀行の住宅ローンを利用する多くのお客様に付帯されています。

住信SBIネット銀行の住宅ローンは、従来、金利の低さでたくさんのお客様から支持されてきましたが、私どもの団体信用生命保険が付帯されるようになったことで、より一層、顧客便益性が向上したといえるでしょう。SBIグループの金融生態系によるシナジー効果が発揮されている良い事例です」(飯沼氏)

単に保険を販売するだけではない 顧客の健康に寄与する企業へ

店舗や外交員を持たない身軽さを武器に手ごろな保険料の商品を提供していると聞けば、他のネット生保と呼ばれる保険会社も同じといえる。だが、どうやらSBI生命の戦略は競合他社と根本から異なっているようだ。

「おそらく、自分から率先して保険に加入しようとするお客様はかなり限定的なのではないでしょうか? 結婚や子どもの誕生など、生命保険に対するニーズが喚起される場面も限定されているのが現実です。

その一方で、保険会社とお客様との接点も、加入時と保険金支払時のみと限られています。そこで、私どもはもっとお客様との接点を増やすことで、単に保険商品を提供するだけでなく、お客様の健康に寄与する企業になりたいと考えています」(飯沼氏)

具体的には、保険加入者の体調データを日頃からこまめに記録・管理し、健康状態を保つことをサポートするというサービスが一例であり、SBI生命では、株式会社FiNCが開発したスマートフォン用パーソナルコーチアプリを無料で提供している。このアプリは、FiNC独自の最先端AI(人工知能)テクノロジーを駆使し、ダイエットや健康管理を強力にサポートしてくれるものだ。

「健康管理アプリとの連携は、様々な可能性を秘めています。例えば、現状の生命保険は年齢や性別をもとにして保険料が設定されていますが、日頃から健康を心がけている人は病気になるリスクが低いわけですから、本来であれば、保険料が割安に設定されるべきです。

当社では、将来的にはアプリを通じて収集したお客様の健康に関するデータなどを保険料の設定に反映させていくことも検討しています」(飯沼氏)

ほかにも国内の大手健康機器メーカーや海外の有望ベンチャーなどと組んで、サービス内容の充実に向けた取り組みを進めていくという。

例えば、SBIグループが出資しているスイスのFinance App社傘下のフィンテック会社「Wefox」は、顧客の保険加入状況を診断し、過剰となっている保障の最適化を図ると共に、それに伴って発生した余剰金(払いすぎていた保険料分)を預貯金や投資に再配分するといったことを可能にする。そういった投資先ベンチャー企業のサービスやノウハウを生かして、お客さまにとって使いやすくカスタマイズされた保険サービスの導入を検討していく計画だ。

また、2018年5月から近畿大学と連携し、AIを活用したがん遺伝子パネル検査の実施可能性を問う臨床研究を開始した。同研究によってSBI生命はがん遺伝子パネル検査の費用負担軽減につながる新たな保険商品の開発が可能かどうかを調査する。

「制度上は証券や銀行、保険(生保・損保)というように垣根が設けられていますが、お客様のニーズにはそうした区別はありません。本来は『今は保障の充実よりも運用を優先するのが望ましい』など個々のお客様の状況やライフステージに応じて、最適なご提案をするのが金融機関の理想的な姿であると考えています。

グループ内に証券、銀行、保険を営む子会社を有し、革新的なサービスを提供するSBIグループだからこそ、お客様にそういった総合的な推奨が可能となるでしょう」(飯沼氏)

証券、銀行、保険などの垣根を越えた総合的な金融サービスが提供される時代になれば、保険の存在意義も様変わりするかもしれない。つまり、誰かに強く勧誘されて加入したり、漠然とした将来の不安を解消するために加入するようなものではなくなるのだ。SBI生命がやろうとしていることは、その状況を一変させるポテンシャルを有している。

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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