スーパーCEO列伝

いま、“人脈”から“つながり”へ 「Wantedly People」は名刺を超えて人をつなぐ

文/新美友那 写真/伊藤圭 | 2019.02.12

日本のビジネスシーンにおいて欠かせない名刺だが、交換後に見返すことは少ないというのが現実ではないだろうか。そんななか、ウォンテッドリー株式会社が提供する名刺管理アプリ「Wantedly People」は、“名刺を超えた人のつながり”を追求している。なぜ今、名刺に着目したのか。また、ウォンテッドリーが考える名刺を通した“人脈づくり”とはどのようなものなのか。ローンチにもかかわった開発デザイナーの青山さんと、開発リーダーの武田さんへのインタビューからひもといていく。

名刺市場の成長に注目。手軽に名刺を活用できるサービスを目指して

2016年11月にローンチした「Wantedly People」は、ウォンテッドリー社の新規事業開発の一環として始まった。同社では、既にサービスローンチして順調に登録企業数を伸ばしていた会社訪問サービス「Wantedly Visit」の他にも、さらなる会社の成長のために新しい事業の開発を考えていたという。そこで市場規模の調査を行い、一番大きかった名刺市場に注目した。

「今の日本のビジネスシーンでは、名刺は皆が使っているものですから、ビジネスツールとして市場規模のポテンシャルが大きかった。当社では、『ビジネスSNS』を手掛けていることから、ビジョンとして“つながり”や“人脈”に親和性があり、名刺のサービスを開発するべきという結論に至りました」(青山さん)

ウォンテッドリー株式会社 デザイナー
青山 直樹(あおやま なおき)

慶應義塾大学大学院を修了後、デザイナーとしてプロダクトや広告のクリエイティブに携わる。2015年にウォンテッドリー株式会社に入社。デザイナー、アートディレクターとして「Wantedly People」の開発にかかわり、デザイナーチームのリーダーを務める。

名刺市場に参入するにあたり、思い当たった課題が「名刺をもらっても使わない」ことだったという。そういった身近な課題解決のために「複数枚を同時にデータ化する」というソリューションに至った。

「まず、僕たちは名刺をもらっても使っていないんです。なぜ使わないかを考えたときに、必要な名刺をすぐ取り出せる状態にないからだ、ということに気づきました。名刺をもらってファイリングする人はいますが、見返すことはあまりないですよね。僕のように机の上に名刺が積んである、なんてこともあります(笑)。

まずは『この名刺の山を片づけたい』と思い、そのために『複数枚を同時にデータ化する』というアイデアとそれを実現する技術に達しました。それなら『1枚ずつ読み取るのは面倒』という人でも使えると考え、とにかく、手軽にすばやく使えるUXを重視して開発を行いました」(青山さん)

一度に10枚の名刺をデータ化。手軽に使えて“つながり”を強化する名刺管理アプリ

手軽さを重視して開発された「Wantedly People」。その最大の特徴は最大10枚の名刺を同時にスキャンし、瞬時にデータ化できる点にあるという。また、人と人とのつながりに着目し、人工知能が相手の会社の情報などをサジェストする「話題」の機能を実装した。

「『Wantedly People』は、複数の名刺を一度で読み取れることが他のアプリとの最大の違いです。ですから読み取りの確実さよりも、早さや手軽さを重要視しています。『名刺を活用できていない』という課題を解決するためには、面倒に感じず名刺をデータに変えてもらうことが先決だろうと考えました」(青山さん)

名刺管理アプリは既に類似サービスが多数リリースされており、『Wantedly People』は後発。競合するサービスとの差別化を図るために、まずは入口としての”名刺のスキャン”に着目したのだ。また、会社としてのミッションである「シゴトでココロオドル人をふやす」に通じる、“つながりの構築”にも焦点を当てた。名刺交換からは人脈づくりというワードにつながりがちだが、同社では“人脈”という言葉はあまり使わないのだという。

「当社では、“人脈”よりも“つながり”という言葉をよく使います。その違いは、『相手のことをより深く知っているか』。人脈というと、少し無機質な感じがしますよね。ただ名刺交換をして連絡先を知っただけでは、”ココロオドルシゴト”にはつながりません。気持ちとして相手を尊敬したり、ビジョンに共感したりといったことでつながりを深めることが、人と人とが“つながる”ということです」(青山さん)

そのつながりを深めるために、「Wantedly People」には「話題」をサジェストする機能がある。データ化した名刺の情報を基に、人工知能が50を超える提携メディアから相手の会社や業界に関連する情報を見つけてくる。相手の会社を訪問する前にそれらの話題をチェックしておくことで、相手への共感の糸口を提供してくれる機能だ。

「話題のサジェストでは、相手の会社のHPだけでなくニュースなども上がってきます。その記事に対し、コメントや『Like(いいね!)』をつけられるので、よりお互いのことを知り、関係性を強めることができます。また、あいさつ文やユーザーアイコンの登録を行うことで、顔と名前が一致します。このように、名刺交換の後もより深くかかわることで、“つながりの温度”が上がり、共感が生まれるのだと思います」(武田さん)

ウォンテッドリー株式会社 エンジニア
武田 祐樹(たけだ ゆうき)

立命館大学大学院を修了後、大日本印刷株式会社でICT事業開発に携わる。2018年より現職。「Wantedly People」開発リーダーとして、開発プロジェクトの管理を担当。

今後は「会社の自分」より「個人の自分」の時代になっていく

ビジネスSNS「Wantedly Visit」が企業と人とをつなぐサービスだとすれば、「Wantedly People」は人と人とをつなぐアプリだ。働き方の多様化が進む昨今、一つの企業にずっと勤めるという働き方は過去のものとなりつつある。今後のビジネスシーンでは個人同士のつながりが主流になっていく、と両氏は話す。

「大手印刷会社に勤めていた頃は、他社の部長と名刺交換すると、上司に『良いつながりができたね』とよく言われました。この“良い”というのはきっと、地位の高さのことでしょう。しかし、最近は大手から大手だけではなく、ベンチャー企業にも人が流れるなど、転職活動も活発になっています。“部長”という肩書ではなく、その人個人とのつながりが、今後はより大事になっていくのではないでしょうか」(武田さん)

「人は結局、人に支えられて生きていると思うんです。“人生100年時代”ともいわれているように、これからは1つの会社の従業員として仕事をしている時間よりも、個人として様々な人や組織と仕事をしながら生きる時間のほうがどんどん長くなっていく。であれば、人脈やつながりは個人が持っていたほうがいいはずです」(青山さん)

名刺交換の“次”の文化へ。人と人が出会うときに必須の存在になりたい

ローンチ以降、堅調にユーザー数を伸ばし、2018年10月時点でその数は300万を超えた「Wantedly People」。このサービスについて、同社内での事業としてのポジションや今後の成長性について尋ねた。

「プロダクトの価値という意味では、『Wantedly People』は従来からウォンテッドリーが取り組んできたサービスである『Wantedly Visit」』と並列です。主には人と人とをつなぐのか、企業と人とをつなぐのか、という違いだととらえています。現時点では名刺交換を通してつながりをつくるという取り組みは始まったばかりです。まだまだ名刺に関連する市場は大きいので、まずは多くの人に使ってもらいたいですね」(青山さん)

「現在、『Wantedly People』のユーザー数は300万を超えていますが、まだまだ伸び代があると思います。名刺利用人口が約2000万人(※)であることを考えると、ユーザー数をあと1桁伸ばしたい。つまり1000万人オーバーを目指したい」(武田さん)

※総務省「就業構造基本調査」「労働力調査」、文部科学省「大学等におけるインターンシップ実施状況について」を基にウォンテッドリー株式会社推計

データではなく、印刷物を交換する日本の名刺文化。情報のデジタル化やペーパーレスが推進されているなかで、今後もこの文化は続いていくのだろうか。名刺文化の行く末と、「Wantedly People」のこれからについて尋ねたところ、意外な答えが返ってきた。

「電子書籍が流通し始めた頃、紙の書籍はなくなるといわれていましたが、今も使われていますよね。同様に、名刺文化も続いていくと思います。名刺の場合、渡す動作は紙の方が便利な一方、管理という意味ではデジタルの方が便利です。名刺交換は紙で、その後の管理はデジタルで、と分けて使っていくようになるのではと考えています」(武田さん)

「今後、『Wantedly People』では“名刺”という枠を抜け出したいです。名刺はビジネスシーンでほとんどの人が使っていて、つながりをつくる入口として優れているので、今は名刺を介しています。ですがいずれは名刺を超えた、人と人が出会うときに必須の存在にしていきたいと思っています。人とよく会う営業職の方だけでなく、僕らデザイナーのように普段それほど名刺を使わない人でも使えるようなプロダクトにしていきたいです」(青山さん)

ちなみに青山さんとはその場では名刺交換せず、『Wantedly People』の検索からつながることで、その後、紙の名刺以上の情報を知ることができた。なるほど、ビジネスでもその人を最初に知る手段は名刺でなくてもいいのかもしれない。

同社にとって、名刺はあくまでインターフェースなのだ。名刺文化と共存しつつ、名刺交換が無くてもつながれるような機能を提供しながら、相手との共感をさらに生み出す機能を追加し、つながりを深めていってもらいたい、と2人は意欲的に締めくくった。

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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