スーパーCEO列伝

答えは顧客の声の先にある マジで価値があることしかやらないクラウド会計freeeの勝ち筋

freee株式会社

SMB事業部 副事業部長

髙村大器

文/吉田祐基(ペロンパワークス・プロダクション) 写真/十河 英三郎 | 2019.07.23

導入事業所数が100万を超え、クラウド会計ソフトの分野で高いシェアを誇るのが、「クラウド会計ソフト freee(以下、「会計freee」)」だ。2013年3月のサービス開始から、ここまで導入事業所数を増やした秘密はどこにあるのか。「会計freee」のニーズの高まりを間近で感じてきた、freee株式会社の髙村大器氏に話を伺った。

freee株式会社 SMB事業部 副事業部長 髙村大器(たかむら たいき)

岩手県二戸市出身。筑波大学教育学部卒。2013年、大学卒業後にワークスアプリケーションズに新卒入社。4年間、大手法人向けERPのセールスに従事。2016年2月、freeeに入社。中小企業向けのセールスを経験し、2017年からは中堅企業向け事業の立ち上げ、営業統括を経て2019年7月より事業副部長。

顧客の声を聞くだけでは不十分

導入事業所数をここまで増やせた要因は何か?という質問に対し、髙村氏はfreeeの価値基準(≒行動指針)でもある「本質的(マジ)で価値ある(通称、マジ価値)」を大切にする姿勢にあると答える。

「顕在化していないものも含め、お客様の本質的な課題に向き合う姿勢こそが、導入事業所数を増やせた大きな要因だと考えています。freeeでは、お客様から直接課題を聞くことはもちろん、それに加えてお客様の中でまだ言語化されていない課題を自分たちが考えるということを大切にしています。

例えば、馬に乗るのが当然の時代ならお客様は『もっと速く走る馬が欲しい』と要望し、『クルマが欲しい』という要望は出てきません。ですが、お客様の要望を実現するのはクルマの方だったりします。本当に価値のあるものはお客様の要望の先にあるのだと思います」(freee株式会社 髙村大器氏、以下同)

では、顧客の中で言語化されていない課題には、どうやって気づくのだろうか。

「freeeには、良し悪し抜きにまずは思いついたアイデアを共有するという文化があります。なぜならfreeeの行動指針の一つでもある『あえて、共有する』という意識が従業員にあるためです。お客様と直接向き合う営業と、サービスを開発する社員同士が活発にコミュニケーションを行う機会も多く、こういったオープンな関係によって生まれる議論が、本質的な課題に気づくきっかけになっているのではないかと考えています」

“能動的”なサポートで導入へのハードルを軽減

導入数を着実に増加させている「会計freee」だが、サービス開始当初は伸び悩んだ時期もあった。中小企業向けの会計ソフト市場は数十年変わっていないという背景もあり、「クラウドサービス」という新しいものに対して抵抗感があっという。その状況を打開するために力を入れたのが、導入後の“能動的な”サポート体制だ。

「従来はサポートというと、受動的なものがほとんどでした。つまりお客様から問い合わせがあった内容に関してのみ、サービスを提供する側が応えるというものです。ただその方法だと、問題があったとしてもわざわざ問い合わせるのは面倒だと思うお客様もいますし、そもそもお客様が問題を認識してからのサポートでは遅いわけです。

そこで使い慣れてもらうために、一定期間、能動的にサポートする体制を整えました。継続して使い続けてもらえるかの境目になることが多い、導入後6か月や、決算期や年末調整などのタイミングで、運営側からお客様にアプローチしています」


インストール型の会計ソフトであれば、1回導入してしまえば数年程度はバージョンが変わらないことも多い。一方でfreeeが提供するのは、クラウドサービス。サービス改善がスピーディな反面、アップデートを行う機会も多く、そうなると必然的にユーザーはアップデートの度に対応を迫られる。こういったケースにおいても、freeeでは能動的なサポートでカバーしている。

そのほかfreeeでは、会計士や税理士といった“専門家の言葉”でサポートすることも大事にしている。

「特に地方の場合、地元に根づく専門家の言葉を重視する企業も多いです。そこで地方の中小企業などに導入してもらう際は、freee社内の人間と顧客となる企業をつなぐ通訳としての役割を、地元の専門家の方にお願いしています。

自分たちが信じたものを世の中に出すだけでは、多くの方に利用してもらうことはできません。それを届け、受け入れてもらうための工夫も大切です。そういったことに地道に取り組んだ結果、導入事業所数の増加につながっています」

クローズドな会計からオープンな会計へ

時間外労働(残業)の上限規制など、この4月から働き方改革関連法が順次施行されていることで、大企業だけでなく中小企業においてもバックオフィス業務の効率化に着手する動きは多い。

「会計freee」導入によるメリットとしても業務の効率化に注目が集まりがちだが、高村氏はそれ以外にもメリットはあると答える。

「まず、経理部など、一部の部署のみが把握しているのではなく、経営者が会計データを頻繁に閲覧できるようになることは大きなメリットだと思います。帳簿などは本来、経理部の担当者に“閉じている”ものです。しかしクラウドサービスなら、インターネットにつながる環境さえあれば、経営者がいつでもアクセスできる。つまり経営や資金繰りに必要となる情報を、いつでも取得できるわけです。

また、仮に地元で経理業務ができる人材を採用するのが難しい企業があるとします。その場合でも、会社のお金の流れをクラウドサービスで管理すれば、地元で人材を雇用せずとも、会計部分のみをアウトソースできます。東京などで人材のアウトソーシングサービスを提供している会社に依頼もできるわけですね。

これは何も、小さい企業だけの話ではありません。100人単位の会社であっても、会計ソフトへの入力作業を外部にアウトソースして、社内への共有は内部のスタッフに行ってもらうなどの動きも実際に増えています」

さらに髙村氏は、「会計freee」を利用することによって月次決算のデータを見られるタイミングが早まることも、メリットとして挙げる。

「クラウドを使わない場合、5月の月次決算のデータが見られるのは翌々月の7月頭ぐらいです。それぐらいは時間がかかってしまいます。しかし『会計freee』を導入することによって5月のデータが、翌月の6月頭には見られるようになります」

決算のデータが見られるタイミングが早まれば、必然的にビジネスの改善スピードも早まる。真の働き方改革が生産性そのものの向上にあるとすると、「会計freee」を利用することで、結果的に本来向き合うべき部分に注力できたり、ビジネスモデルそのものの早期改善につながったりすることも期待できるわけだ。

会計ソフトはすべての企業が使うもの freeeを入口にクラウドサービスの利用率を向上させたい

最後に「会計freee」の目指す姿について髙村氏は、「『会計freee』を入口に、日本のクラウドサービスの利用率を向上させる役割を担いたい」という。

「導入いただく企業の中で、クラウド会計ソフトの使い勝手が良かったから、会計以外の部分でもクラウドサービスを使ってみようといった動きが増えています。つまり『会計freee』は、ほかのクラウドサービスへの導入ハードルを下げる役目も担っているといえます。

会計ソフトは業界・業種問わず、どの事業者でも利用する可能性があるもの。クラウドサービスの利用率を向上させるために、最初の入口の役割を果たせるというのは、freeeで働いていてとても意義があることに感じます」

事実、freeeは2019年1月30日に「freeeアプリストア」をオープンした。同社がこのサービスを「App Store」や「Google Play」のBtoB版と例えるように、「会計freee」と連携できる他社のクラウドサービスを、ストア内のトップ画面からボタンひとつで検索・導入できる。

freeeが「スモールビジネスを、世界の主役に。」というミッションを掲げるように、中小企業の生産性を向上させる取り組みは、着実に進んでいる。

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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