スーパーCEO列伝

答えは“現場”にある!

日本交通株式会社

代表取締役会長

川鍋一朗

写真/宮下 潤 文/髙橋光二 マンガ/M41 Co.,Ltd | 2015.02.10

マッキンゼー日本法人でキャリアを積んだ川鍋氏は、祖父、父が社長を歴任する老舗タクシー会社「日本交通」に入社した。だが、同社がバブル期に手を出した不動産投資は不良債権化し、経営は火の車。「アメリカ帰りのエコノミスト」と揶揄されながらひとり自主再建に打って出た川鍋氏はタクシーサービスのイノベーションを敢行。 “タクシー王子”の異名を取り業界の常識までも一新させた価値創造の源泉は、徹底した“現場主義”にあった。

日本交通株式会社 代表取締役会長 川鍋一朗(かわなべ いちろう)

1970年、東京都出身。日本交通の創業者・川鍋秋蔵の孫として生まれ、幼い頃から「将来は会社を継ぐ」と意識していた。慶應義塾大学経済学部卒業後、ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院に留学し、MBAを取得。帰国後、コンサルティングファームのマッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパンに入社し、経営コンサルタントとしての経験を積む。2000年、取締役として日本交通に入社。専務、副社長を経て、2005年、業界最年少の34歳で社長就任。グループ全体で約1900億円もの負債を抱えていた同社を大胆な経営改革で立て直す。その後も“攻めの戦略”で売り上げを伸ばし続け、注目の若手経営者として話題を集める。著書に『タクシー王子、東京を往く。』(文藝春秋)がある。

川鍋一朗に学ぶ「価値創造」の基本戦略

旧態依然としたタクシー業界に次々と“画期的”なサービスを打ち出し、業績を盛り返した川鍋氏。そのアイデアはどうやって生み、どう実現させているのか? 経営の根幹である「価値創造」の6つの要諦を、川鍋氏のマネジメントスタイルから学ぼう。

01視野を広げてヒントを探す

全く新しい、画期的なサービスをつくるのは生易しいことではない。机の上で唸って考える時間があったら、身の回りに存在しているヒントを探したほうが早い。日本初のタクシー配車アプリも、住所がない花見会場でもGPS機能でオーダーできる宅配ピザのアプリがヒントになった。要は、いかに早くヒントをつかみ、いかに早く自社流のエッセンスを入れたサービスに仕立て、いかに早く市場に投入するか。それほど優れたものでなくても、改良していけばいい。むしろ問われるのは、執着心である。


02“質より量”で打って出る

よくあるのは、複数の実行案のうちどれがいいかを決めるために一つひとつリサーチし、一つに絞ること。しかし、それを実際に市場投入したところで、現実的にうまくいくとは限らない。そこで失敗したら、ダメージも大きい。そうではなく、アイデアは“質より量”と考えること。

3案あるなら3案を、しかも同時にやってみることだ。厳密なリスク分析より“気軽に”“アバウトに”やることだ。その際は、ダメでもダメージが少なくて済むよう一つひとつのサイズは小さくしておくこと。その中から「これは行ける!」というものを大きく育てるのだ。

日本交通では、2010年にアプリ、エキスパート・ドライバー・サービス(EDS)、介護事業と3つ同時にやった。かつEDSは「東京観光」「キッズ」「ケア」の3つを同時にやった。失敗した介護は二千数百万円の損失で済んだ。この勢いが成功に繋がったのだ。

03批判は受け流す

うまくいかないと、社内外から批判される。日本交通でも、「2ちゃんねる」に“サクラチル”というスレッドを立てられた。サクラとは日本交通のマークだ。当初はすべてチェックしたが、生産的でないと知った。そこで、自分の名前を堂々と出しての意見以外は受け流すことにした。名乗らずに批判する人は、自分の鬱憤を発散したいだけだからだ。

批判を言う人が1000人いると、名乗って意見を言う人は100人。その中に、自分の貴重な時間を犠牲にし、手間をかけて助言してくれる人が10人いる。その人の意見を、一生懸命聞くのだ。このルールで、気軽に失敗できるようになった。


04成功したことは広言する

何かと自慢することは「はしたない」とする文化が日本にはあるが、成功したものは恥ずかしげもなく広言すべき。そうすれば社内の雰囲気はアガり、活性化するからだ。また、人はみな忙しく、他人のことなどあまり耳に入らないと思うべき。だからこそ、こちらのほうから意識的に言いまくる。そうすれば、いろいろなところで取り上げてもらえ、いい宣伝にもなるのだ。

05自ら市場に出る

よく「マグロのようだ」と言われるが、立ち止まっていると死んでしまうタイプかもしれない。現場にいないと、感覚がつかめない。事件が起こるのも、現場だ。タクシードライバーを経験したのも、タクシー会社の社長なら現場を一度経験してみるべきと考えたから。

“0”と“1”の差は限りなく大きい。学んだビジネススクールの中興の祖は“Walk to Talk”と言っていたし、あのドラッカーも「マネジメントの要諦は自ら市場に出ること」と言っている。自分だけじゃない、社員も市場に出す。今は“パーミッションレスの時代”という言葉があるが、アプリ一つつくるコストは人一人分の人件費だけ。失敗のリスクは下がっている。稟議など不要、どんどん市場に投入すればいい。


06オープンな環境をつくる

動物は、陰があると隠れたくなるもの。人間だってそうだ。他とのコミュニケーションを断てば自分だけの心地よい時間が過ごせる。しかし、仕事はチームでするもの。大事なのは、自分一人で時間をかけて完成度を上げることではない。それよりも、複数の人の意見の食い違いを把握し、間違いを直すことがはるかに重要だ。

だから、大広間にノンパーテーション。かつ、Facebookグループを多用し、「何かあったらすぐ言ってくれ!」という環境をつくっておく。電話では言いにくいことでも、書いて済ませられれば少しは気が楽だろうからだ。コミュニケーションは精緻じゃなくていい。いや、雑なレベルのほうがいいのだ。

SUPER CEO Back Number img/backnumber/Vol_56_1649338847.jpg

vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
コンテンツ広告のご案内
BtoBビジネスサポート
経営サポート
SUPER SELECTION Passion Leaders