ベンチャーをサポートする法知識[11]

【ベンチャー企業法務】経営者なら知っておくべき「株主の権利」と「持ち株比率」を念頭に入れた資本政策の重要性

GVA法律事務所

弁護士

鈴木 景

編集/武居直人(リブクル) | 2018.08.31

多くのスタートアップ企業の場合、当初は経営者、または共同経営者が100%の株式を保有することになりますが、その後の資金調達による株式の新規発行に伴って、経営者の方々が保有する株式の割合は次第に減っていくことになります。

そのため、資金調達を受けるにあたり「どれくらいの割合を持っておけば、どの程度の権利を確保できるのか」ということを把握しておくのは、資金調達の場面でどれくらいの株式数を放出するかを検討するうえでも有用かと思います。

そこで本記事では、会社法上の株主の権利について、割合ごとに見ていこうと思います。

GVA法律事務所 弁護士 鈴木 景(すずき けい)

2009年弁護士登録。都内法律事務所、企業法務部を経て、17年、GVA法律事務所に参画。ベンチャー企業のビジネス構築や、国外進出、企業間のアライアンス等を法務観点からサポートしている。

©︎Leremy/Shutterstock

 

持ち株比率によって変化する「株主の権利」

※リブクル作成(クリックで拡大)

■「株式を過半数以上を有している」株主の権利

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会社法上、発行済株式の過半数以上を保有している株主は、株主総会において、例えば以下の決議を行うことができるとされています。


□取締役、監査役、会計監査人の選任・解任
□役員報酬の決定
□計算書類の承認
□法定準備金の減少・剰余金の資本組み入れ
□金銭による剰余金の配当


このように、過半数以上の株式を保有していれば、役員の選解任といった、会社における通常の意思決定を、自らの判断で行うことができます。

■「株式を3分の2以上を有している」株主の権利

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会社法上、発行済株式の3分の2以上を保有している株主は、株主総会において、上記に加えて、例えば以下の決議を行うことができるとされています。


□譲渡制限株式である募集株式について、募集事項の決定や、割当先の決定
□特定の株主からの自己株式の有償取得
□株式の併合
□定款変更
□役員の責任の一部免除
□事業譲渡
□解散


このように、3分の2以上の株式を保有していれば、通常の会社運営に必要な意思決定に加え、重要な意思決定を行うことができます。

特に、資金調達を受けようとする場合には、譲渡制限株式の募集事項の決定や割当先の決定、定款変更の決定などが必要となりますが、それらについては、3分の2以上の株式を保有する株主の賛成が必要になることには注意が必要です。

 

「株主の権利」と「資本政策」の関係

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以上を前提にすると、経営層が発行済株式の3分の2以上を保有していれば、ほぼ全ての決議を、経営層のみの判断で行うことができることになります。ですので、資本政策においても、可能な限り、経営層の株式数が3分の2を下回らないように設計することが、会社側としては望ましいといえます。

 

【関連記事】起業時の資金調達に重要な「資本政策」~法的注意点や具体的な方法は?~

 

特に、会社設立の初期、初めて資金提供を受ける際に、多くの株式を渡してしまうことはよくあるケースといえます。

例えば、設立当初の何ら実績のない会社に、しかも一番資金が必要なときに、数百万円以上の金額を投資してくれるエンジェル投資家が見つかった場合、まさに会社にとっては「エンジェル」に思えることでしょう。そのような方には、なるべくたくさんの株式を渡したくなるのが人情というものです。

しかし、特に会社の設立初期では、スピーディな意思決定が必要となるでしょうし、経営者としても、まずは自分たちの思うように会社を運営していきたいと思うはずです。

そのような状態を可能な限り長期的に確保していくためにも、設立初期に交付する株式数は、可能な限り謙抑的であるべきです。この点は、特に注意が必要です。

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また、実際に会社を運営していく過程で、実際には、会社のバリュエーション(企業価値の評価)の観点から、必ずしも会社の資本政策どおりの資金調達ができない場合も多くあるでしょう。会社が想定していた以上の株式を投資家に渡さないと、必要資金が手に入らないということもあり得ます。

そうなると、少なからず、会社運営において外部投資家の意向にも気を配りながら経営をする必要が出てきます。このことは、必ずしも会社側にとって不利な話ではありません。

VCや投資家の方々は、様々な会社に投資をされているでしょうし、また、ご自身も、一度起業を経験されているケースが多いため、彼らから意見をもらうことにより、自社にとって有益な他社事例を得ることができます。

中には、自分たちでは思いつかなかったアイディアも出てくることでしょう。VCや投資家から意見をもらうことによって、意思決定のオプションを増やすことにも繋がります。

これらのことから、経営層としては、重要な意思決定についてのコンセンサスが得られるよう、定期的にVCや投資家とコミュニケーションを取っておく必要がある点にも注意が必要です。

 

まとめ

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今回は、会社法上の権利の観点から、「株主の権利」と「持ち株比率」を念頭に入れた資本政策の重要性について整理をしてみました。

特に、起業経験のない方にとっては、会社設立初期段階で、過剰な割合の株式を放出してしまうことが多いといえます。ですが、一度株式を交付してしまうと、それをあとから無き物にすることは基本的にはできません。

合意によって買い戻そうにも、相手方からNOと言われば、それを買い戻すこともできません。場合によっては、設立初期に株式を渡しすぎたということで、新たに会社を立ち上げたほうがよい、というケースもありえます。

それほどまでに株式の交付はセンシティブな問題ですので、可能な限り慎重に、謙抑的に、ご検討いただく必要があると考えます。

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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