スーパーCEO列伝

人材のシナジーを生む“ナナメ”のつながり ロールモデルの多さが誰かのアンサーに

文/山岡ソースケ、山岡リホ 写真/鶴田真実 | 2018.08.10

DDホールディングスは、積極的なM&Aによって連結従業員数8000人超の企業規模にまで拡大。グループ18社(非連結、関連会社含む)の人材を生かすための採用や育成の方法を、グループ人材開発室に聞いた。

【グループ人材開発室】DD船団を支える“人材の中枢”

「グループ人材開発室」は、外食やアミューズメントを中心とした企業が集うDDグループの人材開発を、一手に担う基幹組織。約480店舗を運営するDDグループにおいて、本社および各社・各店舗の採用業務を中心に行う“人材の中枢”ともいえる部署だ。

採用人数は年間で350人にも上り、採用計画の立案から活用する媒体選定、採用企画の実施・運営など、その業務は多岐にわたる。また、採用後の導入研修も担当し、グループのビジョンやマインドを醸成。社員一人ひとりの力を最大限に発揮させるための取り組みを数多く行っている。

ブランドや店舗の垣根を越えた“ナナメ”のつながり

入社直後の合宿研修をはじめとした人材教育を行うなかで、同期のヨコのつながりが強くなるのは当然といえるだろう。また、日々の仕事を遂行するなかで、いわゆる上司と部下のタテのつながりも自然と強化されていく。多くの企業がそうであるように、タテとヨコのつながりが社員の仲間意識をより強固なものにし、かつ人材としての成長を促すことは間違いない。

しかし、グループ人材開発室室長を務める向山幸代さんは、「それだけではあくまでも『辞めない、一定のスキルを持った社員』の育成にとどまり、多様な価値観を持ち、さらに大きな仕事へとチャレンジしていける奥行きのある人材を育てることはできない」と語る。

そうした考えのもと、飲食店の現場とグループ人材開発室の両方を経験している佐々木奈槻さんは、タテとヨコ以外のつながりを持つことの重要性について話す。

「私はよく“ナナメ”のつながりといっているのですが、違うブランドの上司は“お姉さん”のような存在で、直属ではないからこそ気軽に話せたり、いろいろな話を聞くことができたりします。年に一度の『よさこいチーム』での活動もそうなのですが、タテやヨコのつながりではない、その関係から得られることはとても多いです」(佐々木さん)

多様な価値観に触れることで、自身の成長を実現する

佐々木さんはグループ内の店を訪れることが好きで、同期を中心としたメンバーとともに月に4、5回訪ねることもあるという。そこでは客として楽しむだけでなく、働く同期の様子を見たり、他店の運営方法などを見て学ぶことも多いという。

また、ここにも他ブランドや他店舗のベテラン勢と交流する“ナナメ”のつながりがある。社員を対象として、系列店の利用額が40%割引になるDDグループの福利厚生は、そんな効果を狙ったものかもしれない。

「組織が大きくなり、働く人や業態も多岐にわたれば、社員同士のつながりが希薄になってしまうリスクも出てきます。しかし、そんななかでも強固なつながりを維持していくことができれば、これまで以上に相乗効果が発揮され、より大きな力を獲得するチャンスにもなるんです」(佐々木さん)

自分たちがいる環境とは違う人々と交流を深めていくことで、ノウハウを学ぶことはもちろん、仕事に対する価値観や、果たすべき使命など、今後の自分の成長を後押しする重要な要素と接することができる。そうして多くのロールモデルに接することで、自ら目指すべきキャリアにたどり着くことができるのだ。

DDグループは現状維持を美徳とせず、常に新しい挑戦を行い、前に進み続ける人材を求めている。その人材を育成するための方法のひとつが、タテ・ヨコにナナメを加えた、多彩なつながりを持てる環境をつくることだといえるだろう。

【室長:向山幸代さん】
個性や特色を生かせる採用

DDグループでは、「世界に誇るオープンイノベーション企業」として、若い人たちがそれぞれに持っている個性や特色を生かせる採用を心掛けています。当社が求める人物像を一言で表現するならば、人や社会を“ワクワクさせたい人”ですね。

グループ会社それぞれが、独自の理念や哲学を持って日々活動をしていますから、採用する際には、あまり細かいところまで絞ることはしません。にぎやかな人も物静かな人も活躍の場があり、またそれを生かせる環境をご用意できるからこそ、採用のための門戸はかなり大きく開かれているといえます。

実際、DDグループも今ではかなり大所帯になっていますから、単に“飲食業界で働く”という志向の人たちだけではなく、様々な選択肢を持った人こそが活躍できる環境になってきています。だからこそ、いかに社員一人ひとりの伸び代を伸ばせるか。それを考えていくのが私たちに与えられた使命です。

多様な人材を成長させるのはロールモデルの存在

スキルや志向の異なる多様な人材を採用し、全員の成長を促すには、採用の段階から対話を大切にしなければなりません。その人がどんなキャリアを目指すのか、人物像は当グループと合っているのか。採用人数だけを目標にし、人材をかき集めたとしても、企業と社員の双方が幸せになることはないでしょう。

当社で活躍できる人材を育てていくために大切なのは、いかにたくさんのロールモデルを用意できるか、ということですね。制度やルールを設けること自体も重要ですが、それを活用している人がいなければ形だけのものとなってしまいます。

「あの人がやっているように……」「あの人のようになりたい……」と、社員が目指すべき像が明確にあればこそ、社員たちのモチベーションは自然と上がり、自分たちで考え、行動できる人材へと成長してくれるはずです。

例えば、ダイヤモンドダイニングの「エグゼクティブマネージャー」を務める笠松美樹子は、もともとはアルバイト入社でした。彼女は「第9回S1サーバーグランプリ」で優勝経験もあるほど、非常にハイレベルなサービス技能を持つ人材で、現在はグループ全体のサービス研修や店長トレーニング、店舗サービス改善等を担当しています。

いちアルバイトスタッフにも、手を挙げればチャンスが与えられ、そのチャンスを生かせば、しっかりと待遇にも反映される。当たり前のことかもしれませんが、この“チャンスを与え、待遇に反映”が実践できている会社は意外と多くないかもしれません。

“努力が報われる”事例を増やし、前に進むことを止めさせない風土や文化というものが定着すれば、社員のモチベーションもより高い状態を維持しやすくなるはずです。近年話題の定着率に関する課題に対しても、休みを増やそう、残業を減らそうといった取り組みももちろん大切ですが、実はそれ以上に大切なのは、いかに社員に「この会社で頑張る価値がある」と思ってもらえるかだと思いますね。

ダイバーシティを推進し、社員も社会も幸せに

DDグループは男性社員の割合が多く、女性社員の活躍の幅が狭いと思われていましたが、最近では女性の採用数が男性を上回るなど、企業内にも変化の波が訪れています。今後は妊娠・出産、その後の復職といった、女性の働き方にまつわる課題についても、ロールモデルを形成し、道を示すことが必要になってくるでしょう。

フラットな環境で、男女の区別なく、誰しもが主役として成長し、活躍していける。そうしたダイバーシティのある職場づくりを推進し、社員も社会も幸せにできる存在を目指していきたいと思います。

室長
向山幸代(むこうやま ゆきよ)

DDホールディングス執行役員・グループ人材開発室室長。採用・共育・ダイバーシティ推進を担当。1980年11月生まれ。立教大学経済学部経営学科卒。大学卒業後、大手外食企業に入社し、人事に従事。その後、ベンチャー外食企業に転職し人事や営業推進部のマネージャーを経験。2011年11月、株式会社ダイヤモンドダイニングに入社し、採用部門のチーム長に従事。2014年9月、同社初の女性の執行役員に。

Qグループ人材開発室の方々に聞きました。担当企業の特徴は?

【ダイヤモンドダイニング担当:佐々木 奈槻さん】
個性を生かし、主体的に活躍できる社風

ダイヤモンドダイニングでは、「主体性」と「素直さ」を重視しています。社員にはにぎやかな人もいれば、物静かな人もいます。しかし、どんな個性を持った人であっても、積極的に新しいことに取り組むという姿勢は共通しているんです。

それぞれの個性を発揮しながら、のびのびと活躍できる自由な社風がダイヤモンドダイニングの一番の魅力だと思いますね。私自身も、会社説明会で自由度の高い社風に大きな魅力を感じて入社を決めました。

入社1年目の社員には一人ひとりにトレーナーが付き、現場で働く際のノウハウを学んでいく「トレーナー制度」を導入しています。接客のポイントからテーブルの拭き方まで、トレーナーが分かりやすく指導します。ダイヤモンドダイニングには接客のマニュアルがないので、私が入社した際も、やる気はあっても実際の接客でどんなところに気を配るべきか気づけないこともあり、大変に感じることもありましたが、トレーナーの先輩の助けもあり、目標を立てて行動できるまでに成長できました。

しかし、一方的に教えられるだけではなかなかノウハウは身につきません。そこで開催しているのが、「DDゼミナール」です。2週間に一度同期で集まり、「なぜ掃除をするのか?」などというテーマでディスカッションします。そうすることで、教わったノウハウ(=手段)だけでなく、その目的までしっかりと理解できるようになるのです。

インプットとアウトプットの場を設けることで、社員のスキルと個性を高めていく教育体制が、ダイヤモンドダイニングの大きな強みですね。

研修や合宿を通じて、社員が“孤独”にならない工夫を

採用担当として、社員の離職についても考えます。私は、社員が孤独を感じてしまうことが離職の原因だと考えているのですが、「DDよさこいチーム」や「新入社員研修合宿」などは、社員同士のつながりを深める一因になっていると思います。

中でも社員研修は、どこでも通用する社会人基礎力を身につけられるカリキュラムを組み、全員でのワークやダンスを通して集団行動に取り組む機会を設けています。そうすることで、社員同士の絆が強まるだけでなく、自分で考える力や向上心が鍛えられて、組織の中でもイキイキとした個性を発揮できる人材へと成長させることができるのです。

私もその研修を受けましたが、指導を受ける側からトレーナー側になったことで、これらの企画の目的やダイヤモンドダイニングが目指している方向性をより深く理解できるようになりました。これを新入社員や就活生にも伝えることが私の使命ですね。

ダイヤモンドダイニング担当
佐々木 奈槻(ささき なつき)

DDホールディングス グループ人材開発室・ダイヤモンドダイニング採用担当。1991年10月生まれ。亜細亜大学経営学部ホスピタリティマネジメント学科卒。2014年4月、新卒としてダイヤモンドダイニングに入社。「今井屋」系列店にて約2年の飲食店の店舗責任者等を経て現職の採用担当に。入社1年目から「よさこい」メンバーの一員になり、サービスのコンテストにも積極的に参加。その後、店舗責任者に抜擢され、新卒のトレーナーも務めるなど、豊富な現場経験を持つ。

【ゼットン担当:渡邉若菜さん】
人に対して真摯に向き合い、組織を成長させていく

ゼットンは、人のことを想う組織です。どうすれば人を輝かせられるか、そのために自分にできることは何か。人のために、自分のために、社員一人ひとりが高い意欲を持って物事に取り組む社風なのが最大の特徴ですね。

入社したばかりで分からないことがあっても、常に誰かがそばにいて、しっかりとサポートする体制が整っています。何よりも、人に対して真摯に向き合うという姿勢を社員全員が大切にしているんです。

現場の社員を輝かせるために、「人づくり推進チーム」を立ち上げて、社内研修に取り組んでいます。ほかにも「One on Oneミーティング」として、毎月1回、現場の社員同士で面談をしています。

普通の会社は上司から部下に対する指示が中心ですが、ゼットンでは部下から上司に意見を伝えることで、建設的に議論し組織を成長させていく風土があるんですよ。人が好きで、皆と何かを成し遂げたいという意欲のある人にとって、ゼットンは最適な環境だと思っています。

ゼットン担当
渡邉若菜(わたなべ わかな)

株式会社ゼットン 人事総務部人づくり推進チーム。1992年12月生まれ。跡見学園女子大学文学部臨床心理学科卒。2015年4月、新卒としてゼットンに入社。ビアガーデンでの研修後、「grigio la tavola」(赤坂)、「神南軒」(渋谷)を経験し、2017年10月、社内公募で現職に。

【バグース担当:山内 充さん】
大人のエンターテインメント空間で最高の感動を提供する

バグースは“洗練された大人のエンターテインメント空間”を提供する会社ですので、ホスピタリティとクオリティの高いサービスでお客様に最高の感動を提供することを大切にしています。人の喜びが自分の喜びになるのが、この仕事での一番のやりがいですね。

バグースの運営する店舗は、規模がとても大きいのが特徴です。そのためスタッフとなる人材には、お客様を楽しませるホスピタリティ精神はもちろんのこと、お店の隅々まで目を行き届かせる細やかな心配りを求めています。

また、経営陣との距離が近く、社長と一緒にランチをとる機会も多いので、非常に風通しの良い社風というのも特徴のひとつ。若い内から大きな仕事も任せてもらえるので、頑張れば頑張った分だけ評価されます。

バグース担当
山内 充(やまうち みつる)

DDホールディングス グループ人材開発室・担当課長。1983年7月生まれ。東北学院大学経済学部経済学科卒。大学卒業後、大手求人企業に入社。2013年1月、ダイヤモンドダイニングに入社し、グループのアルバイト採用責任者に。2017年よりバグースの新卒採用担当も兼任。

【ゴールデンマジック担当:松本詳子さん】
元気に明るく、社員が最も輝ける組織

ゴールデンマジックは、DDグループの中でも最も元気がいい会社を目指しています。それは単に声が大きいとかたくさん働くということではなく、すべてのスタッフが自分の持てる力を最大限に発揮して、輝きを放てる環境をつくるということです。

そこで当社では、「3Gカード」という制度を導入し、社員一人ひとりがお互いの良いところや頑張ったところを見つめ、褒め合う文化を定着させました。前線で目立つ人はもちろんですが、後ろでサポートする人も平等に評価され、上を目指せる職場を目指しています。

ゴールデンマジック担当
松本詳子(まつもと しょうこ)

株式会社ゴールデンマジック 感動設計室担当課長。1991年1月生まれ。東京農業大学生物産業学部生物生産学科卒。2013年4月、新卒としてゴールデンマジックに入社。主力ブランドである「九州熱中屋」での店長経験などを経て、2017年、同社の感動設計室に異動。異動後1年目は、20店舗のサービスサポートに従事し、2年目からは現職の新卒採用担当に。

【全体総括:鹿熊 光さん】
その人の人生にとって最適な選択となるように

グループとしての求める人物像は、「素直で積極的」な「人を喜ばせることを楽しめる」人です。逆にそれさえあれば、どんな境遇の人でも平等にチャンスが与えられ、いくらでも上を目指せる環境といえるでしょう。

私たちが採用をする際、そのすべての人たちに将来の幹部として成長していってもらえればと強く願っています。若手が育たない会社に未来はありません。当社に興味を持ち、当社で働いてみたいと思ってくれたわけですから、私たちもその選択が最適だったと思ってもらえるよう、全力で応援していきたいと思います。

全体総括
鹿熊 光(かくま ひかる)

DDホールディングス グループ人材開発室主任。1988年3月生まれ。日本大学商学部商業学科卒。大学卒業後、大手外食企業に入社し、飲食店のエリアマネージャーや新卒採用担当を経験。2015年2月、ダイヤモンドダイニング入社し、DDグループの新卒採用責任者に従事。

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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