スーパーCEO列伝

カルチャーチームって何ですか? 成長する組織を支える仕組み

株式会社ユーザベース

カルチャーチーム・HRマネージャー

宇尾野 彰大

文/菅原さくら 写真/二條七海 | 2018.10.10

企業・業界情報プラットフォーム「SPEEDA」やソーシャル経済メディア「NewsPicks」などを手がけるユーザベース(UB)の成長には、優れた組織文化が大きく貢献している。社内外に文化を発信・浸透させるとともに、それに共感する多彩な人材を獲得するための採用活動と、事業や個人を活性化させる評価を担う「カルチャーチーム」の仕事に迫った。

株式会社ユーザベース カルチャーチーム・HRマネージャー 宇尾野 彰大(うおの あきひろ)

1986年生まれ。早稲田大学卒業後、リクルート(現リクルートホールディングス)にて営業、新卒採用、人事企画を担当。グループ会社へ転籍し、事業開発、経営企画、事業企画を担当。その後、ソーシャルゲーム開発会社のトライフォートに移り、開発マネジメント・PMOを担当。2018年4月にユーザベースへ参画し現職。

UBの文化を伝える専門チームの誕生

創業から4年が経った2012年。組織が大きくなるにつれ、ユーザベースは深刻な問題を抱えていた。メンバーが増えていくなかで、ミッションやバリューが明文化されておらず、それぞれの社員が判断の基準にできる指針がなかったために、社員それぞれが「自分の考えで本当に正しいのか」という“迷い”を抱えていたのだ。

そこで生まれたのが、社員が共通して掲げる価値観の基準を言語化した「7つのルール」というバリュー。そして、その数年後、企業がより大きくなっていくにつれ、バリューを正しく浸透させていくためのカルチャーチームが設立された。

カルチャーチームは、共同経営者の稲垣裕介氏率いるチームで、当初は3人からスタート。2018年現在は、宇尾野氏を含めた6人のメンバーで動いている。チームは、社内へカルチャーを行き渡らせるほか、採用や人事評価にも大きな役割を持っている。

事業が拡大を続けていくなかで、人材採用は喫緊の課題。採用で何よりも重視しているのは、“ミッションとバリューへの強い共感”。つまりミッションへの理解、そして社風や考え方のミスマッチをなくすことだ。スキルがあってもミッション・バリューへの共感が低ければ採用には至らない。そのため、面接担当者の目は自然と厳しくなるが、効果的な採用を進めるために、カルチャーチームが様々な仕組みづくりを担っている。

カルチャーチームHRマネージャーに聞く 自由と責任のバランスを高い次元で出来る人を採用する方法
カルチャーチームの役割は採用・評価、そして文化の浸透

ユーザベースは、組織としての強さをとても大切にしている。組織力を向上するのは、ミッションとバリューへの強い共感。つまり、しっかりと共有されたカルチャーだ。

「カルチャーチームの仕事は、採用やチームづくり、評価設計を行っているという意味では、機能だけ見ると一般的な『人事部』や『人材開発部』と変わらない部分もあります。しかし、あえて“カルチャー”という言葉をチーム名に冠することで、ユーザベースが“カルチャーを大切にしている”という姿勢が社内外に伝わると考えています」(宇尾野氏)

カルチャーチームが担うのは、自社のバリューとミッションを色濃く反映した「採用」と「チームづくり」。また、特別な場面だけでなく、日常のコミュニケーションにおける文化の啓蒙も、役割のひとつだ。

例えば2週間に一度の全社ミーティング(通称「みんなの会」)の運営サポートも担っている。単純な数字の報告や経営陣がメッセージを伝えるだけの場ではなく、経営陣が、各々の意思決定の場面などで“自分が感じたユーザベースらしさ”を、それぞれに共有し合う機会にもしているという。バリュー・ミッションを体現する組織をつくるための、根幹をなす取り組みだ。

採用時に重視するのはバリュー>ミッション>スキル

カルチャーチームが動きはじめたことで、よりバリュー・ミッションを意識した採用プロセスができあがってきたという。これには、採用時の面接担当者の指針となる基準を設けて各チームの人を動かし、事業計画に基づく早めの採用提案を増やしたことも、大きく貢献している。

「採用時に重視している順番は、バリュー、ミッション、その次にスキルです。スキルは後からついてくるけれど、ミッションやバリューといったカルチャーがマッチしていない方の入社は、双方にとって不幸な結果を招くことになる。対話を通して、そこをじっくりと見極めています」

とはいっても、数回の面接だけでは、応募者と芯からわかり合えないこともある。リファレンスチェック(応募者の前職企業へ連絡をとること)なども行うことにより、多面的に見極めることもすすめている。それまで一緒に働いてきた上司や同僚が、その人の人柄や経験をどのように感じているのかを聞くことで、応募者のさらに深い内面を知ることができるからだ。

「当社の基本はオープンコミュニケーションなので、水面下で動くことはしません。『あなたの日々の活動を見てくれていた方々と話がしたい』と、本人にはっきりお伝えしています」

このように、一人ひとりの採用に時間がかかるのは避けられないが、カルチャーチームがお互いを見極めるために採用を丁寧に設計することで、徐々に精度の高い採用が実現しつつある。

CULTURE1推進力を生む“共通の価値観”

「SPEEDA」「NewsPicks」「entrepedia」「FORCAS」など複数の事業を抱え、海外拠点もあるユーザベース。価値観やバックグラウンドの異なる多様な人材が活躍する場を整えるのは簡単なことではないだろう。しかし、ミッションやバリューといった共通の価値観のもとに人材が集まり、またそれぞれがミッションである「経済情報で、世界を変える」の実現に向けて自律的に思考・行動できる指針が定まっていることが、同社の推進力を支えている。

基準を保ちながら、採用をスムーズに進める工夫

カルチャーチームが単独で採用活動を担うのではなく、各事業(チーム)が採用に参加する仕組みを推し進めてもいる。一方、採用にかかわる人が増えれば、それだけ基準にばらつきが出ることも危惧される。

「かかわる人が増えても一定の水準を保つために、採用ハンドブックをつくりました。社員の立場によってチェックするポイントは異なるため、役員・マネージャー向けとメンバー向けの2パターンを用意しています。

その上で、1次面接では事業責任者やカルチャーチームから応募者に当社の文化をしっかりと伝え、バリューをベースにお互いにマッチするかを考える機会をつくる。次に、各チームのメンバーが担当する2次面接で、一緒に働きたい人材かどうか、お互いを見てもらいます。最後に役員やマネージャー陣が、チームで活躍できるスキルがあるかどうかや、ミッションへの共感度やご自身にどれだけの意志・覚悟があるかを確認します」

面接の回数をこなさなければ、人を見極めることはできない。だからこそ、どの選考段階においてもバリューフィットは見てもらいつつも、各選考段階において見極めるポイントを絞っている。例えば1次面接ではバリューだけ見てもらい、2次面接では特にスキルが合うかどうかを見てもらうなど、段階ごとで特に見極めたい項目を定めることで、採用効率は上がった。

「日々のコミュニケーションを通じて、チームに先回りの採用提案ができるようになりつつあります。『このチームで次につくりたいと考えているサービスのためには、新たに違った価値を持った方が必要だと思うので、採用を強化しますね』というイメージ。現場からの要請を受けて動くだけでは、企業の成長に遅れをとるばかりだから、なるべく上流に入ることを意識しています」

CULTURE2新人も1か月で馴染む

入社研修や情報セキュリティ研修など必要最低限の社内ルールを伝えたあとは、さっそく実務へ。その後は、各事業の説明セッションや創業ストーリを伝えるセッション、代表からの「カルチャー研修」などが組まれる。その他にも、早く会社に馴染み安心して働いてもらうために、「WelP(Welcome Partner)制度」と呼ばれるメンター制度が開始。「1か月も働けば、周囲から『もっと前からいると思ってた!』と言われるメンバーもたくさんいます。採用時点でのミッションやバリューへの共感をしっかり見ているひとつの結果かもしれません」(宇尾野氏)

ニュージョイナーが次の採用を担っていく

ユーザベースの社員は9割が中途採用だという。応募時に念入りなフィットチェックがあるとはいえ、採用後のフォローも欠かせない。

「僕らは、新しく入社してきた仲間たちのことを『New Joiner(ニュージョイナー)』と呼んでいます。社内での必要最低限のルールを説明する入社研修やセキュリティ研修、事業のビジョンを共有する研修を受けてもらったら、すぐに実務をスタート。

その後、社長の稲垣が『カルチャー研修』を実施します。当社の文化がどのようにつくられてきて、どこに向かっているのかを伝える場です。受講したニュージョイナー同士で、感じたことを共有してもらい、理解を深める時間もあります。

最近では、ニュージョイナーから『こんな人がいるのだけどユーザベースで採用することが可能でしょうか』という問い合わせも多くいただけるようになり、入社時でのカルチャーをより意識できる場づくりの大切さを実感しています」

2018年からは、本格的な新卒採用もスタートした。ポテンシャルをどこまで見るかが異なるだけで、重視するポイントは中途採用と同じだ。新卒生は2019年3月卒業予定の学生や院生を想定しているものの、学年にはあまりこだわっていない。インターンに参加した2年生で、“卒業まで待つ”条件の内定を出した人材もいる。

評価はOKR方式。3か月に一度、目標をアップデートする

もうひとつの重要な仕事が「人事評価」だ。作業の主体は各チームだが、適切な評価ができるようサポートしたり、仕組みを改善したりするのは、カルチャーチームの役割でもある。

ユーザベースの評価指標は、下記のように整理されている。


バリュー【Value】「7つのルール」に対してどんな行動をとれているか

エッジ【Edge】その人独自の際立った能力

エグゼキューション【Execution】いかにミッション達成に向け、自身が決めた目標を履行・達成したか


これらの要素は、「OKR(Objective and Key Result)」方式の評価シートに落とし込まれている。会社・チーム・個人の3項目で、それぞれに目標とその達成度を測る指標を設定。どのようなことをしたいと考えていて、実際にどのような結果を出せたかをチーム内で擦り合わせていく。

そして、最終的な評価指数は、それぞれの目標達成度を掛け合わせて算出。会社・チーム・個人の目標はどれも大切であり、一個人から見れば同じ重みで最終評価を算出する。3つの方向性を合致させるべき、という姿勢のあらわれだ。

「半年ごとに設定する目標に対して、3か月ごとに中間フィードバック面談をするのも特徴のひとつです。メンバーと上長で途中経過を把握し、必要であれば目標を調整します。もっと上を目指せるときはもちろんのこと、状況に対してストレッチがかかりすぎている場合も、きちんと下方修正をしていきます」

給与体系や賞与が変わるのは、半年に1回の半期面談時。中間面談は、あくまでも強度の調整と進捗確認を目的としている。

「ユーザベースを取り巻く環境は、常に激しく変化しています。半年前に設定した目標が変わっていくこともあり、何が何でもやるべきことだという保証はありません。常に最適な目標を持つために、細かなアップデートが必要だと考えています」

社員の立ち位置によって求められる行動規範は変わる

ユーザベースに「7つのルール」という明確な価値観があるのは、これまでも述べてきたとおりだ。しかし、「7つのルール」のうちでどのバリューを優先すべきか、もしくはどんなエッジを重視すべきかは、チームの状況やメンバーの役割、思いによって変わる。これも、公平な評価をかなえるための工夫だ。

「例えば同じ営業職でも、BtoCとBtoBではコンピテンシー(適格性)が異なります。エンジニアやHR(人事)、経理など、職種が違えばなおさらです。そのためユーザベースでは、チーム・職種・社員のタイトル(等級)に応じて、コンピテンシー・クライテリアを設定しています」

クライテリアとは「判定基準」のことで、事業やチームが立ち上がるときにリーダーが策定するプロセスがある。同じ職種で同じタイトルなのに、チームが違うだけで大きくコンピテンシーがずれている、といった矛盾は、カルチャーチームが調整している。クライテリアの内容はオープンになっており、タイトルと給与が対応しているため、待遇の透明性も高い。

多面的なフィードバックを受けられる「360度評価」

半期ごとにOKRを策定し、メンバーの現在地に合わせたコンピテンシー・クライテリアを用意した上で、より多面的に個人を見るために、「360度評価」も行っている。

「同じチームで仕事をしている人だけでなく、プロジェクトを一緒に行ったなど、チームを越えてかかわりのあった様々なメンバーから、多面的に評価を受ける制度です。評価シート上で見落とされていた長所が浮かび上がったり、反対に、これから改善すべきポイントが整理されたりもします」

その上で宇尾野氏は、自己と他者の評価のミスマッチはどこまでいっても起きる、と語る。

「だからこそ、評価をする人にも説明責任があると思っています。相手のどこを評価していて、どこに期待したいと思っているのか、上司や一緒に働く仲間がプレゼンテーションできるようになってもらいたい。

お互いがお互いをそういう視点で見ることができれば、よりオープンで納得感のある評価が実現していくと考えています。人数や事業、拠点が増えたとしても、絶えずコミュニケーションの仕組みをブラッシュアップしていかなければなりません」

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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