刺激空間から革新が生まれる

経営者・VIPがくつろげる飲食店の秘密@赤坂「88 TWO EIGHT TOKYO」

文/岡本のぞみ(verb) 写真/有泉伸一郎(SPUTNIK) | 2022.06.10

東京・赤坂にある「88 TWO EIGHT TOKYO」は、“大人の秘密基地”をコンセプトにした招待制バーラウンジ。支配人の佐々木亮氏は、かつてDDホールディングス松村厚久氏の下で経営者や有名人が集う人気レストランを運営。独立して「88」をオープンするにあたっては、総合プロデューサーにネクシィーズグループの近藤太香巳代表が入った。飲食店支配人とそこを訪れる経営者として9年来の仲である2人が、「88」の誕生秘話と、経営者がくつろげる飲食店の在り方について語り合った。

  

写真左:株式会社ネクシィーズグループ 代表取締役社長 兼 グループ代表 近藤 太香巳
19歳の時、50万円を元手に会社を創業。34歳でナスダック・ジャパン(現ジャスダック)へ株式上場し、37歳で2004年当時最年少創業社長として東証一部(現プライム市場)に上場。時代が必要とするサービスをいち早く手がけ、携帯電話、インターネットを日本中に普及。現在は、エネルギー環境事業、電子メディア事業、経営者団体「パッションリーダーズ」のいずれも日本一の規模にまで拡大。世界的経済紙 「Forbes(フォーブス)」によるForbes Asia's 200 Best Under A Billion 2018に選定。常に新しい事業領域にチャンレンジを続け、ビジネスパーソンから若者まで情熱あるリーダーとして圧倒的な支持を得ている。JAPAN VENTURE AWARD 2006 最高位 経済産業大臣賞。『シーバスリーガル ゴールドシグネチャー・アワード 2019 Presented by GOETHE』 ビジネスイノベーション部門受賞。

写真右:「88 TWO EIGHT TOKYO」支配人 株式会社RALLY取締役 佐々木亮
2007年、株式会社バグースに新卒入社。「バグース銀座店」から「バネバグース赤坂店」に異動し、店長に。2013年、「1967」の支配人として新店舗立ち上げに従事し、2016年「1967」「PUBLIC6」「carpet tokyo」「Bar under」4店舗のエリア統括を経験。その後、株式会社RALLYを設立し、取締役に就任。2022年「88 TWO EIGHT TOKYO」の支配人に。

“会員制”というリスクをとってこそブランドは生まれる

――お2人の出会いは今から9年前の2013年にさかのぼるそうですね?

佐々木 当時、六本木の「1967」というラウンジカフェの支配人を務めていました。“もっと遊べ、大人たち”がコンセプトのラグジュアリーで開放的な空間が自慢のお店でした。そこを訪れたら華やかな時間が過ごせると、経営者や有名人のお客様に評判になり、毎夜高級シャンパンがポンポン開いているようなお店でした。なかでも、近藤代表は一番のお得意さまでしたね。

近藤 「1967」は、親友であるDDホールディングスの松村厚久氏が出した店の一つ。開店当初から通っていました。華やかだけどプライベート感もあって、ちょっとギラギラした雰囲気も好きで、経営者みんなの溜まり場でしたね。亮(佐々木氏)のサービスも心地良くて、いつしか亮目当てでも通うように。でも、期間限定の店だったから、2020年に閉店したんだよね?

佐々木 はい、自分としてもエネルギーを注いだ店だったので、閉店後しばらくは燃え尽き症候群でした。その間も、近藤代表とは親しくさせていただいて、あるとき、VIPだけの店がつくれないかという構想を思いつきました。

「88 TWO EIGHT TOKYO」支配人 株式会社RALLY取締役 佐々木亮氏。

近藤 「1967」がなくなってからは、自分にとってホームと呼べるお店が一つもなかった。そんなときに、亮と小林(株式会社RALLY代表)が、相談があると事業計画書を持ってやってきた。それが「88 TWO EIGHT TOKYO」(以下、88)のプロジェクトだったんです。

佐々木 はい。独立して新店舗をつくるにあたっては、近藤代表にぜひ相談したくて。ネクシィーズグループが提供する「ネクシィーズ・ゼロ」でチャレンジできないかとお願いにあがりました。「88」では、VIPが安心して通える店をつくりたかったので、会員制のラウンジバーの事業計画書をもっていきました。会員制の店にしたのは、「1967」の後半はたくさんのお客様に利用いただいた一方で、客層が変化して、経営者の方が来にくくなってしまった事情がありました。私としても、経営者をはじめとするVIPの方へのサービスで勝負したい思いもあったので会員制の店にこだわりました。

»導入企業に負担の無い「ネクシィーズ・ゼロ」の仕組み

近藤 会員制の飲食店にするというのはリスクもあります。街を歩いている人をお客様にできないわけですから。落ち着いてきたとはいえ、今はまだコロナ禍。「大丈夫か?」という話はしました。でも、本当に良い空間をつくろうと思ったら、それくらい尖っていないと満足を与えるものはできない。「1967」がなくなった後の亮の店だったから、自分としてもなんせ思いが入ってくる。気づいたら、いろんなアドバイスをしていました。「88」の名付け親も実は私。もう、システムからデザインからブランディングからすべてやって、いつの間にか総合プロデューサーになっていました(笑)。

株式会社ネクシィーズグループ 代表取締役社長 兼 グループ代表 近藤 太香巳氏。

経営者のステータスをくすぐるクローズドな特別感

――「88」は、どのようなコンセプトを打ち出して、お店づくりをされましたか?

佐々木 「88」のコンセプトとして考えたのが、“大人の秘密基地”です。秘密基地というからには、かなりクローズドな空間にしたかったんです。そこで、88人しか会員になれない招待制のバーラウンジという仕組みを考えました。そこにはVIPの会員様がワクワクできる非日常空間にしたかったという思いが込められています。

近藤 “大人の秘密基地”は、おもしろいコンセプトだと思いました。経営者にとってクローズドな店は魅力。経営者仲間はもちろん、取引先や社員を連れてこられる“自分の店”というのはステータスがあります。「私が会員の店に来ませんか」って、かっこいいでしょ? 私は35年経営者をやっているから、経営者にとって、何がステータスに感じられるかというブランディングに関しても全部わかる。積極的にアドバイスしました。

佐々木 会員制とはいいながら入会金や年会費はありません。その代わり、「88」を気に入った方々に来ていただいて常に店が活性化できるよう3カ月間来店が無い場合は自動退会になります。入れ替わりに新しい会員様に入っていただく仕組みです。その分、新しい会員様同士の出会いもあります。「88」の店内は全70席ですが、2テーブルのオープンスペースと4つの個室になっているので、最大で6組しか入れない。選ばれた方々の空間です。

ボタニカルな壁とアロマが落ち着く、ラグジュアリーなオープンスペース。

仄かな照明が温かさを感じる、カジュアルなカラオケルーム。

一面カーペットのため、床に座ってカラオケを楽しむこともできるアットホームな個室も。

近藤 最初に聞いたときは「そんな強気で大丈夫?」と思いました。ただ、それが実現できるのであれば、会員に満足を提供する上ではベストの選択です。理想を形にするのは課題があるけど、実現できたらキラーカードを持つ独自性のある店になれる。経営者が理想を掲げてやると決めたことは、リスクをとりながらでもやるべき。亮だけじゃなく、スタッフを含めてそれをやれるだけのチームでもあるから応援したいと思いましたね。

佐々木 空間デザインで言うと、ラグジュアリーだけど落ち着ける雰囲気にもこだわりました。ベージュの落ち着いた色を基調に、緑を取り入れたデザインにしました。会員制でカラオケのある空間というと、どうしてもギラギラした店になりがち。そうした店とは差別化を図りたいと思いました。天井を明るくしたり、オープンフロアを一段低くして全体を広くみせたりと細部にもこだわって。女性でも楽しめる上質な空間になっていると思います。

入店すると「88」のロゴが。左手にはオープンスペースが広がっている。

オープンスペースや各個室をつなぐ通路。床に映した8を鏡で反射させて「88」に。

近藤 もうね、内装やデザインでいったら、私は図面から見てる(笑)。自分が来て、本当に落ち着ける場所にしようと思って。プロデューサーでありながら、経営者として客目線でどんなところがツボなのかというのを全部入れ込んだ。自分が良いと思うものは、経営者仲間も皆が良いと思う確信があります。究極的には経営者の望むことは一緒なんですよね。

「88」にはオリジナルのミニ封筒が用意されている。来てもらった若い友人に「お車代」をスムーズに渡せるし、その方も終電を気にせず安心して長居できる。これも近藤代表のこだわりの一つ。

近藤代表の誕生日に、佐々木氏から贈られたマイクとワイングラス。名前が刻印された世界に一つだけの品。おもてなしの心や感謝の気持ちを忘れない佐々木氏の思いが詰まっている。

佐々木 「88」の利用は予約から入口の開錠、決済まですべて会員専用のスマホアプリで完結します。スムーズですし、特に入口のアプリによる開錠は特別感が好評です。店内は、個室もフロアも全室、音響設備の整ったカラオケを完備。料理は1Fの黒毛和牛しゃぶしゃぶ店「ひとりしゃぶしゃぶ 七代目松五郎」と共通のキッチンがあり、そこから上質な料理やおつまみを運ぶことができます。

2020年の6月、赤坂にオープンした「ひとりしゃぶしゃぶ 七代目松五郎」。最高級の黒毛和牛を“ひとりひと鍋”で楽しむことができる、時代に則したスタイルが人気。

ビジネスにも直結、新しい出会いや再会を演出する上質空間

――会員の方はどのように「88」を利用されていますか?

佐々木 どのスペースも、一組7〜12人が入れるようになっています。少人数の集まりというよりは、ある程度の人数が集まる会食後に、より親密なコミュニケーションを図りたいときに利用される方が多いようです。居心地の良さを意識した内装にしていますので、経営者仲間はもちろん取引先や社員の方、女性の方も誘いやすい雰囲気。まずは大いに語り合ってから、カラオケを楽しまれる方々が多いですね。

近藤 私は毎週のように利用しています。クローズドな空間ですが、だからこそ濃密な出会いがある場ですね。それを象徴する2つのビジュアルがVVIPの部屋に飾ってあります。一つは男性同士が手をつないで、もう一つは男性と女性が手をつないでいる。ここで信頼が深まって親友になれたり、ビジネスがうまくいったり、恋愛関係になったり……といった新しい出会いがコンセプトになっているんです。

店舗最奥のVVIPルーム。ルーム内にトイレも完備する、広々とした贅沢な空間。

佐々木 ときには再会も演出します。オープンスペースは、スナックバーのような雰囲気があります。経営者同士の社交場の役割もあり、疎遠になっていた経営者同士がここで再び仲良くなったという話もあります。経営者の世界は意外と狭いので、思わぬところで会員様同士のつながりがあるんですね。また、近藤代表にごあいさつしたいという会員様がいらっしゃって、実際にビジネスにつながった話があると聞いています。もちろん、男女の出会いもありますよ。

近藤 ここでビジネスの出会いやビジネスが決まることはすごく多いですね。お連れしたお客様も、パッションリーダーズもそう。フロアでの出会いもあるけど、私は個室で大事な話をよくしています。我々経営者は会食も仕事のひとつなので、ごはんを食べながら個室でじっくり語り合う。単に遊んでいるんじゃなくwin-winの関係性を築いている。もちろん、バカなことを言い合ったり、カラオケも歌ったりする。上質な空間がビジネスを押し上げることを知っているから、ここでの語り合いは本当にうまくいく。長いときは7、8時間いるけど、何時間いても飽きないんです。もう、家みたいなもの。「88」ができたことで、自分の人生の豊かさが増えたという実感があります。

»4000人が集う経営者団体「Passion Leaders」活動レポート

佐々木 近藤代表にそう言っていただけるのが、一番うれしいです。

経営のプロとサービスのプロが語る、これからの飲食店の未来

――佐々木支配人は飲食業一筋のキャリアを歩んでこられました。コロナ禍になって、飲食店に対するニーズに変化を感じていますか?

佐々木 コロナの影響で、食事やお酒を飲みに行く回数が減っている方もいるので、一回一回が厳選されたものになりますよね。そういう意味で、中途半端な営業をしているお店は厳しい。キラーカードのある店が残っていくと思います。“あってもなくてもいい店”との線引きができました。

近藤 最終的に人と人とは、“Heart to Heart”。コロナ禍だったとしても、人は集うことをやめられない。人間の行動の本質は変わらないと思います。ベンチャーにとって、今は攻め時でチャンス。僕は35年前、不動産バブルが弾けたときに起業したからこそ、チャレンジングにいけた。飲食業では、これまで大手がおさえていた好立地に空きが出てきています。ベンチャー飲食店こそ、いま攻めていかないと。新しいものを生み出すチャンスだよね。

佐々木 時代のニーズを読み取りながら、業態やサービスを変化させて攻める必要はあると思います。極論をいうと、10年後に「88」は存在していないかもしれません。それくらいのつもりで、お客様の求めるものを追求していきたいと思います。

近藤 そう、どれだけ時代にフィットしたサービスがつくれるかが肝心です。システムなのかリニューアルなのか。お客様は、それぞれの貴重な命の時間を使ってここに来てくれる。だから、命の時間を使って満足してもらうことがスタッフの最大の使命。私自身、経営者として人を大切にして心を尽くすことで評価されてきた自負があるので、先輩も後輩も一緒になって、ここで近藤と一緒にいて良かったと思ってほしい。今、自分がもてなす一番のステージが「88」なので、「88」のスタッフにはそういう思いは受け取ってほしいと思いますね。

佐々木 実は、僕の接客の原点にあるのは、近藤代表の人への接し方です。この9年間、いつもお客様を見えなくなるまで見送る近藤代表の姿を見てきました。今日、お言葉をいただいて、改めてサービスで満足してもらえる店にしたいと思いました。

近藤 心を尽くして、がんばれよ!


■88 TWO EIGHT TOKYO

https://88-tokyo.com

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vol.56

DXに本気 カギは共創と人材育成

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社

代表取締役社長

井上裕美

DXは日本の喫緊の課題だ。政府はデジタル庁を発足させデジタル化を推進、民間企業もIT投資の名のもとに業務のシステム化やウェブサービスへの移行に努めてきたが、依然として世界に遅れを取っている。IJDS初代社長・井上裕美氏に、日本が本質的なDXに取り組み、加速させるために何が必要か聞く。
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